制度ガイド

親のお金と権限のガイド

認知症で口座が動かせなくなる前に。代理人カード・任意後見・家族信託・日常生活自立支援の4点セット、口座凍結の実際、海外在住の子の関わり方まで、親のお金の管理を整理しました。

公開日
2026-06-07
最終更新日
2026-07-03
情報確認日
2026-07-03
出典
3件の一次情報・公的情報

親のお金の管理は、認知症が進んでから考え始めると選択肢が一気に狭まります。銀行口座が事実上動かせなくなり、家族は立て替えに追われ、兄弟の間には疑心が生まれる。逆に、判断能力があるうちに仕組みを整えた家族は、同じ出来事を事務作業として通過していきます。このガイドでは、いまできる備えの4点セット、口座凍結の実際、日々のお金の回し方、判断能力が低下したあとの選択肢を整理します。

原則と家族の合意づくり

お金管理の2原則|「本人のために」「記録を家族に開く」

親のお金の管理でこじれる原因は、使い込みよりも不透明さです。管理する人が記録を持ち、ほかの家族がいつでも見られる。この状態を最初につくると、あとのすべてが楽になります。

具体的には、介護関係の支出を親の口座からの引き落としにできる限り集約し、立て替えたものはレシートと一緒に記録し、月に一度でも収支を兄弟で共有する。それだけで「あの人が管理しているお金」が「家族で見えているお金」に変わります。管理の負担が一人に偏るときは、記録と共有の仕組みこそ、その人を疑いから守る盾になります。

兄弟・親族で、先に決めておく3つのこと

お金の管理がこじれる原因は、制度よりも家族の合意不足にあることが多いです。動き出す前に、次の3点を言葉にしておきます。

とくに海外や遠方の兄弟がいる場合、見えないことがそのまま不信につながります。管理する人を疑わせないために、記録を開く仕組みを最初に作ることが、結果的に管理者自身を守ります。大きな財産や不動産が絡むなら、早い段階で相続にくわしい司法書士・弁護士に相談しておくと、あとの紛争を避けやすくなります。

  • 誰が日々の管理をするか:通帳や支払いの担当を一人に決め、負担が偏るなら記録の共有で支えます
  • 記録をどう開くか:月1回でも収支を全員が見られる形(共有メモや家計アプリ)にします
  • 「親のお金は親のために」を原則に:立て替えや贈与は相続で問題になりやすいので、その都度記録します

元気なうちに整える備え

判断能力があるうちの4点セット

親がまだ自分で決められるうちにしか作れない仕組みが4つあります。どれも「いつかやろう」の筆頭で、どれも危機の中では作れません。

  • 銀行の代理人カード・代理人指名:本人が元気なうちに銀行で手続きすれば、家族がATMや窓口で代理取引できる。銀行ごとに制度が違うため、親の取引銀行で確認を
  • 任意後見契約:判断能力が落ちたとき誰に任せるかを、公正証書で先に決めておく制度。発効には家庭裁判所が選ぶ監督人がつく
  • 家族信託:自宅や預金の管理を契約で家族に託す方法。柔軟だが設計は専門家(司法書士・弁護士)の領域
  • 日常生活自立支援事業:社会福祉協議会による通帳預かりや支払い支援。判断力に少し不安が出てきた段階の軽い受け皿

4つの選択肢を、費用も含めて比べる

代理人カード・任意後見・家族信託・法定後見は混同しがちです。「いつ・誰が・何をできるか・いくらかかるか」で並べると、選びやすくなります。費用はあくまで目安で、財産額や専門家により変わります。

大きな分かれ目は「本人が元気なうちか、低下したあとか」です。元気なうちなら代理人カード・任意後見・家族信託という選びやすい道がありますが、低下したあとに残るのは法定後見だけです。法定後見は申立てから選任までおおむね3〜4か月かかります。4点セットを早く整えるほど、選べる道は広がります。どれが合うかは家庭の事情と財産の中身で変わるので、司法書士や弁護士に一度相談する価値があります。

親の財産管理4制度+日常生活自立支援事業の比較(費用は目安)
手段始められる時期できること費用の目安
代理人カード本人が元気なうち家族が日常の入出金を代理無料〜(金融機関による)
日常生活自立支援事業判断力に少し不安が出た段階社協が金銭管理・通帳預かりを支援訪問1回あたり千円台(生活保護は無料が多い)
任意後見本人が元気なうちに契約本人が選んだ人が将来の財産管理公正証書作成など数万円+発効後の監督人報酬
家族信託本人が元気なうちに契約託された家族が柔軟に管理・運用(年金は対象外)初期数十万円〜(財産額による)。以後はほぼ無償が多い
法定後見判断能力が低下したあと家裁が選んだ後見人が管理専門職後見人なら月2〜6万円が継続

後見より軽い受け皿「日常生活自立支援事業」

「後見ほど大がかりにしたくないが、お金の管理が少し心配」という段階に合うのが、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業です。

判断能力に不安は出てきたものの、契約の内容は理解できる人が対象です。福祉サービスの利用手続きの援助、日常的な金銭管理(公共料金や家賃の支払い、預金の出し入れの手伝い)、通帳や印鑑の預かりなどを、支援員が手伝います。利用には契約が必要で、訪問1回あたりの利用料がかかります(金額は地域により異なり、千円台が目安。生活保護世帯は無料の場合が多いです)。窓口は親の住む市区町村の社会福祉協議会で、地域包括支援センターからもつないでもらえます。判断能力がさらに低下したら、成年後見制度へ移行する流れになります。

元気なうちに棚卸しするもの(口座以外も)

備えの中心は銀行口座ですが、いざというとき家族が本当に困るのは「どこに何があるか分からない」ことです。判断能力があるうちに、一覧にしておきましょう。

「指定代理請求人」とは、本人が病気などで保険金や給付金を請求できないときに、代わりに請求できる人を、契約時にあらかじめ指定しておく仕組みです。多くの生命保険で無料で登録でき、いざというとき家族がスムーズに給付を受けられます。代理人カードと並ぶ「元気なうちにできる無料の備え」なので、保険会社に確認しておきましょう。

これを1枚にまとめておくだけで、口座凍結や急な入院といった「その日」に家族が動けます。暗証番号そのものを共有する必要はなく、「どこに何があるか」と「誰に聞けばわかるか」が分かれば十分です。海外にいる家族とは、この一覧の保管場所だけでも共有しておくと、緊急時に探し回らずに済みます。

  • 銀行・証券・ネット口座:金融機関名、支店、おおよその残高、ネットバンキングの管理方法
  • 年金:受給状況と振込口座(年金は信託や代理の対象外なので、振込口座の管理が要になります)
  • 保険:生命保険・医療保険・火災保険の証券の保管場所と連絡先。あわせて「指定代理請求人」を登録しておくと安心です
  • 固定費の引き落とし:公共料金・通信・サブスク・家賃や住宅ローンの口座
  • 不動産・負債:自宅の権利証の場所、借入やローンの有無

判断能力が低下したあとの制度

「口座凍結」の実際を知っておく

認知症になると口座が凍結される、とよく言われます。正確には、銀行が本人の意思確認をできなくなった時点で、出金や解約に応じにくくなる、ということです。突然ロックがかかるわけではありませんが、結果として家族がお金を動かせなくなる点は同じです。

凍結のきっかけは、たいてい些細な場面です。窓口で本人の受け答えがかみ合わない、家族が「認知症で」と告げる、施設入所で大口の出金や解約を申し出る、といったときに、銀行が本人の意思確認ができないと判断して取引を制限します。逆に言えば、判断能力があるうちに代理人手続きを済ませておけば、この事態は避けられます。

知っておきたいのは、業界団体が「本人のための医療費・介護費の支払いなら、親族からの依頼に柔軟に対応する」方向の考え方を示していることです。請求書や領収書を揃えて事情を説明すれば、施設費用の振込などに応じてもらえる場合があります。ただしこれはあくまで例外対応で、銀行や支店によって扱いが分かれます。例外頼みで綱渡りを続けるより、上の4点セットを先に整えておくほうが確実です。

判断能力が低下してからの選択肢

何も備えがないまま判断能力が失われたら、残る道は法定後見です。家庭裁判所が後見人を選び、財産管理と契約の権限を与える仕組みで、施設入居の契約などもこれで可能になります。

現実も知ったうえで使ってください。申立てから数か月かかること。後見人には家族でなく司法書士などの専門職が選ばれることも多く、その場合は報酬が継続的に発生すること。後見人は家族の希望ではなく本人の利益のために動き、家庭裁判所への報告義務が続くこと。身寄りがない場合は市区町村長が申立てできることも覚えておいてください。制度の入口の相談は、地域包括支援センターか家庭裁判所の後見窓口です。

法定後見の3つのレベル — 後見・保佐・補助

法定後見は一つではなく、判断能力の低下の程度に応じて3つの段階に分かれます。どれになるかで、後見人らの権限の広さが変わります。

どの類型になるかは、医師の診断をもとに家庭裁判所が判断します。軽いほうから補助・保佐・後見で、本人の自己決定をどこまで残すかが変わります。専門職が後見人に選ばれた場合の報酬は、財産の額などにより月2〜6万円程度が一つの目安とされます(家庭裁判所が決定します)。申立てや類型の見極めは専門的なので、弁護士・司法書士や家庭裁判所の後見窓口に相談しながら進めてください。

  • 後見:判断能力が欠けているのが通常の状態。成年後見人が財産管理や契約を広く代理します
  • 保佐:判断能力が著しく不十分。借金・不動産の売買など重要な行為に、保佐人の同意が必要になります
  • 補助:判断能力が不十分。本人が選んだ特定の行為について、補助人が同意・代理します

海外家族の関わりと相談先

海外在住の子どもがお金を支える場合

海外からの仕送りや立て替えは、距離のぶんだけ記録が大切になります。為替や送金手数料で金額が揃わないことも、あとから揉める種になりがちです。

実務のコツは3つ。送金は金額とタイミングを固定して「不定期の善意」を「決まった分担」に変えること。日本側に支払い実務を担う人(家族・日常生活自立支援事業・コーディネートサービス)を置き、海外側は承認と記録に回ること。そして円建てでいくら親のために使われたかを、共有の家計メモに残すことです。相続の場面で生きてくるのは、気持ちの記憶ではなく日付つきの記録です。

どこまで自分で・専門家で進め、どこからJCCに相談するか

後見契約や家族信託の作成、銀行の代理人手続き、社協の金銭管理は、弁護士・司法書士・銀行・社会福祉協議会という有資格者と公的窓口の仕事で、JCCがその手続きそのものを代行することはありません。私たちがお手伝いするのは、4つの備えのどれを使うかを家族の事情で整理する壁打ちと、海外に住む子が日本の親のお金にどう関わるかの設計、そして適切な専門家へ渡す前の準備です。担当の分かれ方を下の表で確かめてください。

法務と金融の実行は有資格者と公的窓口に任せ、私たちはどの備えを選ぶかの整理と、海外の子の関わり方の設計、専門家へつなぐ準備までを受け持ちます。

親のお金の備えの役割分担
専門家・銀行・社協(有資格/公的)が担うことJCCに相談したほうがよいこと
任意後見契約・家族信託の作成、法定後見の申立て(弁護士・司法書士)4つの備えのどれが親の状況に合うかを、費用や家族構成を踏まえて整理すること
代理人カード・代理人指名の手続き、口座の取り扱い判断(銀行)海外に住む子が承認と記録に回る役割分担を、日本側の担い手とあわせて設計すること
日常生活自立支援事業による金銭管理・通帳預かり(社会福祉協議会)後見・信託・社協のどの窓口にいつ相談すべきか、つなぐ前の準備を整えること
後見類型の見極めや法的な権限の説明(弁護士・司法書士・家庭裁判所)備えの話を親にどう切り出し、兄弟の合意をどうまとめるかの段取りを練ること

よくある質問

親が認知症になると、銀行口座は本当に使えなくなりますか?

本人の意思確認ができなくなると、出金や解約に応じてもらいにくくなります。医療費・介護費の支払いについては親族からの依頼に柔軟に対応する考え方も示されていますが、銀行ごとに扱いが分かれる例外対応です。代理人カードや任意後見を先に備えるのが確実です。

家族が親のキャッシュカードでお金を下ろしてもいいのでしょうか?

本人の依頼にもとづき本人のために使うのが大前提です。判断能力が低下したあとの引き出しはトラブルや相続時の争いの種になりやすいため、レシートと記録を残し、正式な代理の仕組みへ早めに移行してください。迷う場合は専門家にご相談を。

成年後見人には家族がなれますか?

家庭裁判所が事案ごとに選任します。家族が選ばれることもありますが、財産が多い場合や親族間に対立がある場合は司法書士・弁護士などの専門職が選ばれることが多く、その場合は報酬が継続的に発生します。

任意後見の準備にはどのくらい費用がかかりますか?

公正証書の作成手数料や登記費用などで、おおむね数万円台が目安です(内容により変わります)。発効後は監督人への報酬が発生します。防げる損失の大きさと比べれば、備えとしては小さい部類です。

成年後見の「後見・保佐・補助」は何が違いますか?

判断能力の低下の程度による3つの段階です。後見は判断能力が欠けているのが通常の状態、保佐は著しく不十分、補助は不十分な場合で、軽いほうから補助・保佐・後見です。どの類型になるかは医師の診断をもとに家庭裁判所が判断し、本人の自己決定をどこまで残すかが変わります。

日常生活自立支援事業はいくらかかりますか?

訪問1回あたりの利用料がかかり、金額は地域によって異なります(千円台が目安)。生活保護世帯は無料の場合が多いです。判断能力に少し不安が出た段階で、社会福祉協議会が金銭管理や通帳の預かりを手伝う制度で、後見制度より手前の軽い受け皿として使えます。

親が元気なうちに、まず何から準備すればいいですか?

最優先は、銀行の代理人手続きと、お金の在りか(口座・年金・保険・固定費)の一覧づくりです。どちらも判断能力があるうちにしかできません。あわせて、将来誰に任せるかを決める任意後見や家族信託を、財産の状況に応じて司法書士・弁護士に相談しておくと安心です。

一次情報・公的情報

本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-03.

この記事について

この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。

あわせて読みたい

関連するガイドとサービス