親のお金の管理は、認知症が進んでから考え始めると選択肢が一気に狭まります。銀行口座が事実上動かせなくなり、家族は立て替えに追われ、きょうだいの間には疑心が生まれる。逆に、判断能力があるうちに仕組みを整えた家族は、同じ出来事を事務作業として通過していきます。このガイドでは、いまできる備えの4点セット、口座凍結の実際、日々のお金の回し方、判断能力が低下したあとの選択肢を整理します。
原則はふたつ。「本人のお金は本人のために」「記録は家族に開く」
親のお金の管理でこじれる原因は、使い込みよりも不透明さです。管理する人が記録を持ち、ほかの家族がいつでも見られる。この状態を最初につくると、あとのすべてが楽になります。
具体的には、介護関係の支出を親の口座からの引き落としにできる限り集約し、立て替えたものはレシートと一緒に記録し、月に一度でも収支をきょうだいで共有する。それだけで「あの人が管理しているお金」が「家族で見えているお金」に変わります。管理の負担がひとりに偏るときは、記録と共有の仕組みこそ、その人を疑いから守る盾になります。
判断能力があるうちの4点セット
親がまだ自分で決められるうちにしか作れない仕組みが4つあります。どれも「いつかやろう」の筆頭で、どれも危機の中では作れません。
- 銀行の代理人カード・代理人指名:本人が元気なうちに銀行で手続きすれば、家族がATMや窓口で代理取引できる。銀行ごとに制度が違うため、親の取引銀行で確認を
- 任意後見契約:判断能力が落ちたとき誰に任せるかを、公正証書で先に決めておく制度。発効には家庭裁判所が選ぶ監督人がつく
- 家族信託:自宅や預金の管理を契約で家族に託す方法。柔軟だが設計は専門家(司法書士・弁護士)の領域
- 日常生活自立支援事業:社会福祉協議会による通帳預かりや支払い支援。判断力に少し不安が出てきた段階の軽い受け皿
「口座凍結」の実際を知っておく
認知症になると口座が凍結される、とよく言われます。正確には、銀行が本人の意思確認をできなくなった時点で、出金や解約に応じにくくなる、ということです。突然ロックがかかるわけではありませんが、結果として家族がお金を動かせなくなる点は同じです。
知っておきたいのは、業界団体が「本人のための医療費・介護費の支払いなら、親族からの依頼に柔軟に対応する」方向の考え方を示していることです。請求書や領収書を揃えて事情を説明すれば、施設費用の振込などに応じてもらえる場合があります。ただしこれはあくまで例外対応で、銀行や支店によって扱いが分かれます。例外頼みの綱渡りを続けるか、上の4点セットを先に作るか。答えは比べるまでもありません。
判断能力が低下してからの選択肢
何も備えがないまま判断能力が失われたら、残る道は法定後見です。家庭裁判所が後見人を選び、財産管理と契約の権限を与えるしくみで、施設入居の契約などもこれで可能になります。
現実も知ったうえで使ってください。申立てから数か月かかること。後見人には家族でなく司法書士などの専門職が選ばれることも多く、その場合は報酬が継続的に発生すること。後見人は家族の希望ではなく本人の利益のために動き、家庭裁判所への報告義務が続くこと。身寄りがない場合は市区町村長が申立てできることも覚えておいてください。制度の入口の相談は、地域包括支援センターか家庭裁判所の後見窓口です。
海外在住の子どもがお金を支える場合
海外からの仕送りや立て替えは、距離のぶんだけ記録が大切になります。為替や送金手数料で金額が揃わないことも、あとから揉める種になりがちです。
実務のコツは3つ。送金は金額とタイミングを固定して「不定期の善意」を「決まった分担」に変えること。日本側に支払い実務を担う人(家族・日常生活自立支援事業・コーディネートサービス)を置き、海外側は承認と記録に回ること。そして円建てでいくら親のために使われたかを、共有の家計メモに残すことです。相続の場面で生きてくるのは、気持ちの記憶ではなく日付つきの記録です。
よくある質問
親が認知症になると、銀行口座は本当に使えなくなりますか?
本人の意思確認ができなくなると、出金や解約に応じてもらいにくくなります。医療費・介護費の支払いについては親族からの依頼に柔軟に対応する考え方も示されていますが、銀行ごとに扱いが分かれる例外対応です。代理人カードや任意後見を先に備えるのが確実です。
家族が親のキャッシュカードでお金を下ろしてもいいのでしょうか?
本人の依頼にもとづき本人のために使うのが大前提です。判断能力が低下したあとの引き出しはトラブルや相続時の争いの種になりやすいため、レシートと記録を残し、正式な代理のしくみへ早めに移行してください。迷う場合は専門家にご相談を。
成年後見人には家族がなれますか?
家庭裁判所が事案ごとに選任します。家族が選ばれることもありますが、財産が多い場合や親族間に対立がある場合は司法書士・弁護士などの専門職が選ばれることが多く、その場合は報酬が継続的に発生します。
任意後見の準備にはどのくらい費用がかかりますか?
公正証書の作成手数料や登記費用などで、おおむね数万円台が目安です(内容により変わります)。発効後は監督人への報酬が発生します。防げる損失の大きさと比べれば、備えとしては小さい部類です。
公的な情報源
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
