川崎市の成年後見制度利用支援事業は、生活保護受給者やそれに準ずる低所得世帯を対象に、審判請求費用(鑑定費用)の全額と、後見人等報酬を月額28,000円(在宅等)または18,000円(施設入所)まで助成する制度です。申請窓口は本人の年齢で分かれます。
状況の入口
親族申立て・市長申立て・日常生活自立支援事業のどれに当てはまるか
親の判断能力の低下が心配になったとき、家族がまず迷うのは「誰が、どの制度で動けばいいのか」という入口の部分です。選択肢は大きく三つに分かれます。1つ目は本人の配偶者や四親等内の親族が家庭裁判所に後見・保佐・補助開始の審判を申し立てる「親族申立て」、2つ目は身寄りが乏しく親族による申立てが期待できない場合に市長が申し立てる「市長申立て」、3つ目はまだ判断能力がある程度残っていて日常的な金銭管理の支援だけで足りる場合の「日常生活自立支援事業」です。
3つのうちどれが今の親の状態に合うかは、判断能力の程度と、身近に動ける親族がいるかどうかで変わります。日常生活自立支援事業は社会福祉協議会との契約が前提のサービスで、成年後見制度そのものとは権限の範囲が異なります。契約内容を理解できる程度の判断能力が残っている場合の選択肢として、日常生活自立支援事業のガイドで詳しく扱っています。
入口を決めないまま様子を見ているうちに、判断能力の低下が進んでしまうことも珍しくありません。日常生活自立支援事業で対応できていた段階から、預金の解約や不動産の処分といった重い法律行為が必要になる段階に移ると、契約締結能力そのものが問われるようになり、後見制度への切り替えが避けられなくなります。どの入口が今の状態に合うかを早めに整理しておくことが、あとの選択肢の広さにつながります。
市長申立てが使われる場面
親族申立てができない、または親族に申立てを行う余裕がない場合の受け皿になるのが市長申立てです。老人福祉法は、65歳以上の者の福祉を図るため特に必要があると認めるときに市町村長が後見開始等の審判請求を行えると定めています。実務では、入院先の病院のケースワーカーが区役所に相談し、市長申立てにつながるケースが典型例として案内されています。海外在住の子どもがいても、国内に日常的に動ける親族が事実上いない状態であれば、この市長申立てが検討対象になり得ます。
親族が申立て自体はできても、審判請求費用や後見人等の報酬を負担する余力がないという家庭のために用意されているのが、次に説明する川崎市独自の助成です。制度全体の法定後見・任意後見の違いや申立ての流れは、成年後見制度の比較ガイドで扱っているため、ここでは費用助成の中身に絞ります。市長申立てと親族申立てのどちらであっても、費用助成の対象者要件そのものは変わらず、審判対象者本人の収入・資産の状況で判定される点も押さえておきたいところです。
後見までは不要かもしれない場合
「まだ後見人をつけるほどではないが、通帳や印鑑の管理、公共料金の支払いに不安が出てきた」という段階では、成年後見制度そのものより先に日常生活自立支援事業を検討する余地があります。この事業は社会福祉協議会が生活支援員を通じて日常的な金銭管理や書類預かりを支援するもので、契約締結能力が残っていることが前提です。判断能力の低下が進んで契約自体が難しくなった段階で、初めて後見制度への切り替えが検討されます。親のお金の全体像を早めに把握しておく考え方は親のお金と権限のガイドで整理しています。
費用助成の中身
審判請求費用(鑑定費用)助成の対象
川崎市成年後見制度利用支援事業には、性質の異なる2つの助成があります。1つ目は「審判請求費用(鑑定費用)助成」で、家庭裁判所に後見・保佐・補助開始の審判請求をした申立人のうち、収入や資産の状況から鑑定費用を負担することが困難と認められる人が対象です。助成対象になる経費は、家庭裁判所に予納すべき鑑定費用に限られます。申立てにかかる収入印紙代・登記手数料の印紙代・郵便切手代・診断書取得費用はこの助成の対象外で、別途申立人が自己負担する必要があります。助成額は、予納すべき鑑定費用の全額です。
なお、家庭裁判所の令和6年の司法統計では、実際に鑑定が実施された事件は成年後見関係事件全体の約3.8%にとどまるとされており、鑑定自体が必要になるケースは多数派ではありません。それでも鑑定が必要になった場合に数万円から十数万円規模の負担が生じ得ることを考えると、この助成の存在を知っておく価値はあります。申請期間は、家庭裁判所から予納の通知があった日から起算して3か月以内です。
後見人等報酬助成の月額上限
2つ目は「後見人等報酬助成」です。家庭裁判所が審判により決定した成年後見人・保佐人・補助人・後見監督人等の報酬について、本人(被後見人等)が負担することが困難と認められる場合に、報酬の全部または一部を助成します。助成対象経費には上限があり、被後見人等が施設等に入所している場合は月額18,000円、在宅等の場合は月額28,000円が上限です。家庭裁判所が決定した実際の報酬額とこの上限額を比較し、低い方が助成額になります。上限を超える部分は助成の対象外で、本人の財産や家族の負担で賄うことになります。
助成の対象となる期間にも条件があり、川崎市への申請日から起算して2年前までの分が助成対象で、審判が出ていてもそれより前の分は助成されません。申請期間は、家庭裁判所が報酬付与の審判を行った日から起算して3か月以内です。期間を過ぎると助成を受けられなくなるため、審判の通知を受け取った時点で早めに動く必要があります。
助成額の算出方法は、本人が亡くなったあとに後見人等だった人が特例として申請する場合にも当てはまります。たとえば、家庭裁判所が決定した報酬額が40万円、本人の遺留財産が10万円しか残っていない場合、不足する30万円と助成上限額とを比較し、低い方が実際の助成額になります。遺留財産で報酬をまかないきれない状態でも、上限の範囲内であれば助成を受けられる仕組みです。
対象になる人の所得・資産の基準
両方の助成に共通する対象者要件は、生活保護受給者、中国残留邦人等支援給付受給者、またはこれらに準ずると認められる方です。「準ずる方」に該当するには、本人と生計を同じくする世帯員全員が市民税非課税であること、年間収入見込額と資産額がそれぞれ世帯人数に応じた基準を満たすこと、居住する家屋その他日常に必要な資産以外に活用できる資産がないこと、という条件をすべて満たす必要があります。単身世帯であれば年間収入見込額150万円以下かつ資産350万円以下が目安です。世帯人数が増えるほど基準額も上がる仕組みで、詳しい早見表は次の比較表にまとめています。
後見人等が被後見人等の配偶者・直系血族(父母・祖父母・子・孫など)・兄弟姉妹といった親族である場合、または川崎市が養成した市民後見人である場合は、後見人等報酬助成の対象外になります。この助成は主に、専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士等)が後見人等に選ばれ、本人の財産から報酬を支払う必要があるケースを想定した制度だと理解しておくとよいでしょう。
申請の実務
申請窓口は本人の年齢で分かれる
申請書類の提出先は、審判対象者(審判請求費用助成の場合)または被後見人等(後見人等報酬助成の場合)の年齢によって分かれます。本人が65歳未満の場合は「健康福祉局障害保健福祉部障害計画課地域支援担当」(電話044-200-0871)、65歳以上の場合は「健康福祉局地域包括ケア推進室認知症・権利擁護担当」(電話044-200-2470)が窓口です。本人が知的障害や精神障害のある方であっても、申請日時点で65歳以上であれば地域包括ケア推進室が窓口になる点は、家族が問い合わせ先を間違えやすいポイントなので押さえておきたいところです。
窓口はいずれも川崎市役所本庁舎12階(川崎区宮本町1番地)にあり、郵送またはオンライン申請(e-KAWASAKI経由)でも手続きできます。ただしオンライン申請の場合でも、請求書・支払金口座振替依頼書と通帳の写しについては郵送または持参での提出が必要とされています。
揃えておきたい必要書類
申請時に必要になる書類は助成の種類と対象者要件によって細かく分かれますが、共通して求められるのは、助成金支給申請書、家庭裁判所への申立書や報酬付与審判書謄本の写し、申請者名義の口座が分かる通帳の写しです。生活保護受給者に準ずると認められる区分で申請する場合は、これに加えて世帯員全員分の住民票、市民税非課税を確認できる書類、年金振込通知書や預貯金通帳の写しなど収入・資産の状況が分かる書類の提出が必要になります。書類が多いことに身構えるより、まず川崎市成年後見支援センターや申請窓口に電話で相談し、自分の家庭の場合に何を用意すればよいかを確認するところから始めると進めやすくなります。
申請のタイミングを逃さない
両方の助成に共通する注意点が、申請期間の短さです。審判請求費用助成は家庭裁判所からの鑑定費用の予納通知があった日から3か月以内、後見人等報酬助成は家庭裁判所が報酬付与の審判を行った日から3か月以内が申請期間です。介護や本人の対応に追われている間に通知や審判の日付が過ぎてしまうと、助成そのものを受けられなくなります。家庭裁判所からの書類が届いたら、日付を確認したうえで速やかに窓口へ相談することが実務上のポイントです。
後見人等報酬助成については、本人が亡くなったあとでも、後見人等だった人が特例として申請できる仕組みがあります。この場合は、本人の遺留財産が報酬額を下回っている場合に限られ、遺留財産で不足する金額と助成上限額を比べて低い方が助成額になります。
相談は川崎市成年後見支援センターへ
申立書類の作り方や、そもそもどの制度を使えばよいか迷う段階では、川崎市成年後見支援センター(川崎市社会福祉協議会が運営)が相談先になります。センターでは、制度の概要や申立て手続きに関する相談支援に加えて、弁護士・司法書士・社会福祉士による専門相談を予約制・無料で行っており、原則として水曜日の午後、第1週は弁護士、第2週は社会福祉士、第3週は司法書士が担当する曜日交代制です。区ごとの「あんしんセンター」(川崎区・幸区・中原区・高津区・宮前区・多摩区・麻生区の社会福祉協議会)も、成年後見制度や日常生活自立支援事業の入口として相談を受け付けています。地域の相談窓口全般については地域包括支援センターとはや川崎市の介護相談窓口ガイドでも扱っています。
海外家族の視点
海外在住でも申立てや後見人候補になれるか
法定後見の申立人になれるのは本人・配偶者・四親等内の親族などで、居住地は要件になっていません。海外に長期滞在している子であっても、親の後見開始を家庭裁判所に申し立てること自体は可能です。助成の対象になるかどうかも、被後見人等(本人)が川崎市に居住しているかどうかが基準で、申請者である家族自身の居住地は問われません。海外在住の後見人候補者が申請する場合も、必要書類をそろえて郵送で提出できます。
ただし、実務上のハードルは残ります。申立てには戸籍謄本・診断書・財産目録などの書類収集が必要で、海外にいると国内よりも書類のやり取りに時間がかかりやすい点は、法定後見の申立て全般に共通する課題です。身元保証人を頼める親族が近くにいない場合の実務は身元保証人がいないときの介護・入院にまとめています。
今からできる準備
海外に住んでいて日本の親の判断能力の低下が心配な場合、今すぐ後見人をつけるかどうかを決められなくても、口座・年金・保険の一覧化や、任意後見契約の検討は判断能力があるうちにしか進められません。国内に動ける親族がいない、または親族だけで費用を負担するのが難しいという状況であれば、市長申立てや今回の費用助成の存在を知っておくこと自体が備えになります。海外から日本の親を支える全体的な進め方は海外から日本の親を支える方法、日々のやり取りの工夫は遠距離介護の進め方で扱っています。
助成の対象要件や金額は、川崎市の予算や制度改正によって今後変わる可能性があります。実際に申請する際は、必ず川崎市の公式サイトまたは成年後見支援センター、区の担当窓口で最新の要件と金額を確認してください。
海外から相談する方法
海外にいる間は、区役所や成年後見支援センターの窓口に直接足を運ぶことができません。多くの相談窓口は電話やメールでの問い合わせに対応しており、国際電話や時差を考慮したうえで、まずは平日の日本時間の窓口対応時間に合わせて連絡を取ることになります。専門相談は予約制のため、国内にいる親族が代わりに予約を入れ、海外にいる家族は電話で参加するという分担も現実的な進め方です。書類の原本確認や署名が必要な手続きは、一時帰国のタイミングにまとめておくと、海外との往復にかかる負担を減らせます。
比較表
違いを一目で見比べられるよう、表にしています。
| 項目 | 審判請求費用(鑑定費用)助成 | 後見人等報酬助成 |
|---|---|---|
| 対象経費 | 家庭裁判所に予納すべき鑑定費用のみ(印紙代・郵便切手代・診断書取得費用は対象外) | 家庭裁判所が決定した後見人等の報酬 |
| 助成額の上限 | 予納すべき鑑定費用の全額 | 在宅等:月額28,000円/施設入所:月額18,000円(報酬額と比べて低い方) |
| 対象となる所得・資産の目安(単身世帯) | 年間収入見込額150万円以下・資産350万円以下 | 同左(世帯人数に応じて基準額が変動) |
| 申請期間 | 予納通知の日から3か月以内 | 報酬付与審判の日から3か月以内 |
| 親族後見人の扱い | 申立人が対象(親族・専門職を問わない) | 配偶者・直系血族・兄弟姉妹が後見人等の場合は対象外 |
よくある質問
川崎市の後見人等報酬助成は、月額いくらまで助成されますか?
在宅等の場合は月額28,000円、施設入所の場合は月額18,000円が上限です。家庭裁判所が決定した実際の報酬額とこの上限額を比較し、低い方が助成額になります。上限を超える部分は自己負担です。
審判請求費用助成では、収入印紙代や郵便切手代も助成されますか?
助成の対象になるのは鑑定費用のみです。申立てにかかる収入印紙代・登記手数料の印紙代・郵便切手代・診断書取得費用はこの助成の対象外で、別途申立人が負担する必要があります。
助成を受けられるのは、具体的にどのくらいの収入・資産の世帯ですか?
生活保護受給者や中国残留邦人等支援給付受給者に加え、単身世帯であれば年間収入見込額150万円以下かつ資産350万円以下など、世帯人数に応じた基準を満たす世帯も対象になります。
子どもが後見人になった場合、報酬助成は受けられますか?
後見人等が被後見人等の配偶者・直系血族・兄弟姉妹などの親族である場合、または川崎市が養成した市民後見人である場合は、報酬助成の対象外です。主に専門職が後見人等になった場合の報酬が対象です。
身寄りが乏しい場合、申立て自体を市が代わりに行ってくれますか?
老人福祉法にもとづき、本人の福祉を図るため特に必要があると認められる場合は、市長が家庭裁判所に後見開始等の審判請求(市長申立て)を行うことができます。窓口は本人の年齢によって分かれます。
助成の申請には期限がありますか?
審判請求費用助成は家庭裁判所からの予納通知の日から3か月以内、後見人等報酬助成は報酬付与の審判の日から3か月以内が申請期間です。この期間を過ぎると助成を受けられなくなります。
海外在住の家族でも、この助成を申請できますか?
助成の対象になるかどうかは被後見人等(本人)が川崎市に居住しているかで判断され、申請者自身の居住地は問われません。海外在住の後見人候補者が申請する場合も、必要書類を郵送で提出できます。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
- 川崎市「成年後見制度利用支援事業(審判請求費用・後見人等報酬助成)について」(川崎市, curl verified 200)
- 川崎市「成年後見制度利用支援事業の御案内」(令和6年4月1日改定, PDF, 川崎市, curl verified 200)
- 川崎市成年後見制度利用支援事業実施要綱(川崎市, curl verified 200)
- 川崎市成年後見支援センターについて(川崎市, curl verified 200)
- 「知っていますか?成年後見制度」パンフレット(川崎市成年後見支援センター, curl verified 200)
- 老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第32条(e-Gov法令検索, curl verified 200)
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
