法定後見(後見・保佐・補助)は判断能力が低下してから家庭裁判所が後見人を選ぶ制度、任意後見は元気なうちに契約で後見人を決めておく制度です。令和6年の司法統計では、後見人に選ばれた人の82.9%が弁護士や司法書士などの専門職で、親族はわずか17.1%でした。
制度の全体像
判断能力が下がってから使う制度と、下がる前に備える制度
成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」という2つの入口があります。法定後見は、本人がすでに認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が低下し、預貯金の管理や契約行為を自分だけで適切に行うことが難しくなった段階で、本人や配偶者、四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立てることで始まります。家庭裁判所が本人の判断能力の程度を踏まえて後見人等を選び、財産管理や身上保護の権限を与えるという流れです。
一方の任意後見は、本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、誰に後見人になってもらうか、どこまでの事務を任せるかを、本人と将来の後見人になる人との間で公正証書によって契約しておく制度です。契約を結んだ時点ではまだ効力は生じておらず、実際に判断能力が低下したあと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で初めて任意後見人としての活動が始まります。同じ「後見」という言葉が使われていても、始まるタイミングと決め方がまったく異なる制度だと理解しておくことが出発点になります。
法定後見はさらに3つの類型に分かれる
法定後見は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に分かれます。後見は、判断能力がほとんど失われていて、日常的な買い物程度も一人で適切に行うことが難しい状態が対象です。保佐は、日常の買い物はできても、不動産の売買や借金といった重要な財産行為になると援助が必要な状態が対象で、補助は、重要な財産行為の一部について援助があれば足りる、判断能力の低下が比較的軽い状態が対象です。3類型のどれに該当するかによって、後見人等に与えられる代理権・同意権・取消権の範囲が変わり、本人の判断能力を最終的に判定するのは家庭裁判所です。介護保険の要介護度と混同されがちですが、要介護度は身体的な介護の必要度を測る区分であり、後見・保佐・補助は判断能力の程度を測る法的な区分である点が異なります。介護保険制度そのものの基本は介護保険の解説で扱っています。
家庭裁判所の手続き
申立人の内訳と審理期間の目安
法定後見の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族のほか、後見開始の必要があるのに身寄りが乏しい場合には市区町村長も申し立てることができます。最高裁判所事務総局家庭局の「成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)」によれば、令和6年の申立人の内訳は、市区町村長が全体の約23.9%と最も多く、次いで本人自身が約23.5%、本人の子が約19.3%、兄弟姉妹が約10.8%という順でした。市区町村長による申立てが最多である背景には、身寄りが乏しい高齢者の増加があると考えられます。海外在住で身元保証人を頼める親族が近くにいない場合の実務は身元保証人がいないときの介護・入院で扱っています。
審理にかかる期間について、同資料では、終局した事件のうち2か月以内に終わったものが全体の約72.0%、4か月以内に終わったものが約93.8%とされています。内訳を見ると、1か月以内が約38.4%、1か月超2か月以内が約33.6%、2か月超3か月以内が約15.4%です。判断能力の程度を確認するための鑑定が必要になると、その分審理期間は延びますが、令和6年の実績では鑑定が実施された事件は全体の約3.8%にとどまり、多くの申立ては医師の診断書のみで審理が進んでいます。「鑑定に数十万円かかる」という説明を見て身構える人もいますが、実際に鑑定まで進むケースは少数派です。
却下されることは少ないが、書類の準備が実務上の壁になる
同資料では、成年後見関係事件全体の終局事件のうち、認容(後見等の開始が認められた)で終わったものが約95.0%、却下は約0.3%にとどまっています。制度の入口としては、要件を満たしていれば通りやすい手続きだといえます。実務上の負担は却下されるリスクよりも、申立書のほか、本人の戸籍謄本・住民票、診断書、財産目録、収支予定表といった書類を一つずつそろえる手間にあります。申立ての動機としては、預貯金等の管理・解約が約92.7%と圧倒的に多く、次いで身上保護が約73.5%、介護保険契約が約44.7%という結果でした。認知症の進行で銀行口座が事実上動かせなくなる前に、必要な書類の存在を家族内で把握しておくと、いざというときの準備が早くなります。親のお金の全体像を早い段階で整理する考え方は親のお金と権限のガイドにまとめています。
後見人の選び方
親族が選ばれるのはむしろ少数派
法定後見でよくある誤解の一つが「家族が申し立てれば、その家族がそのまま後見人になれる」という思い込みです。同じ最高裁資料によれば、令和6年に成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)に選任された人のうち、配偶者・親・子・兄弟姉妹などの親族が選ばれたのは全体の約17.1%にとどまり、親族以外が選ばれたケースが約82.9%を占めました。親族以外の内訳は、司法書士が11,875件、弁護士が8,794件、社会福祉士が6,873件、市民後見人が331件などとなっています。さらに参考資料では、そもそも申立書に親族を候補者として記載していた事件自体が全体の約21.3%にとどまり、残る約78.7%は親族の候補者がいない申立てでした。家庭裁判所は、財産の額や親族間の意見の一致度、本人の生活状況などを踏まえて、専門職が適任と判断する事件が多いということになります。
専門職が選ばれやすいケース
家庭裁判所が親族ではなく専門職を選ぶ判断は事案ごとに異なりますが、一般的には、管理する財産の額が大きい場合、親族間で候補者について意見が一致していない場合、親族に候補者がいない場合、本人の財産管理に複雑な手続き(不動産の処分、相続手続、訴訟対応など)が見込まれる場合などに、専門職が選ばれやすい傾向があるとされています。申立ての動機別件数でも、不動産の処分が約36.0%、相続手続が約26.1%を占めており、これらの事務が絡む事件では専門的な知識が求められる場面が多いことがうかがえます。親族が候補者として立候補すること自体は可能ですが、選ばれるかどうかは家庭裁判所の裁量による点を理解しておく必要があります。
後見人等の報酬はどう決まるか
成年後見人等の報酬は、法律で金額が固定されておらず、後見等の事務内容や管理財産額をもとに、家庭裁判所が審判で個別に決定します。東京家庭裁判所が公表している報酬額のめやすでは、通常の後見事務を行った場合の基本報酬は、管理財産額が1,000万円以下であれば月額2万円程度、1,000万円を超え5,000万円以下であれば月額3万円から4万円程度、5,000万円を超える場合は月額5万円から6万円程度とされています。身上保護等に特別困難な事情があった場合には、この基本報酬額の50%の範囲内で報酬が上乗せされることもあります。報酬は原則として本人の財産から支払われ、後見が続く限り発生し続ける費用である点も、事前に理解しておきたいポイントです。
任意後見の実務
契約は公正証書で結び、効力はすぐには生じない
任意後見契約は、公証役場で公正証書によって結ぶ必要があります。口約束や私文書だけでは法律上の任意後見契約として認められません。契約を結んだだけの段階では、まだ任意後見人としての権限は発生しておらず、本人の判断能力が実際に低下し、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てが行われ、任意後見監督人が選任された時点で初めて契約の効力が生じます。この点を理解せずに「契約さえ結んでおけば安心」と考えていると、判断能力が低下したあとに家庭裁判所への申立てという別の手続きが必要になることを見落としがちです。
契約時にかかる費用の目安
日本公証人連合会の案内によれば、任意後見契約公正証書の作成にかかる公証人手数料は1契約につき1万3,000円で、証書の枚数が一定枚数を超えると1枚ごとに300円が加算されます。本人が病床にあり公証人が出張する場合は加算があり、日当・交通費も別途必要です。正本・謄本の発行手数料などを含めても、自分たちだけで手続きを進めた場合の総額の目安は2万円から3万円程度とされていますが、契約書の作成を弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途5万円から15万円程度の専門家報酬がかかることが多いとされています。
任意後見監督人選任の手続きと費用
本人の判断能力が低下してきたら、任意後見受任者や親族などが家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行います。令和6年の申立件数は874件で、前年の871件からほぼ横ばいでした。任意後見監督人には、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門職を選ぶことが一般的です。報酬のめやすは、管理財産額が5,000万円以下の場合で月額1万円から2万円程度、5,000万円を超える場合で月額2万5,000円から3万円程度とされています。任意後見人自身の報酬は契約であらかじめ定めた金額(無報酬も可能)ですが、任意後見監督人への報酬は家庭裁判所の審判で決まり、本人が亡くなるか任意後見が終了するまで、本人の財産から継続して支払われる費用になります。
海外家族の備え
海外在住の家族でも申立てはできる
法定後見の申立人になれるのは本人、配偶者、四親等内の親族などで、住んでいる場所は要件になっていません。海外に長期滞在している子であっても、親の後見開始を家庭裁判所に申し立てること自体は可能です。ただし、申立てには本人の戸籍謄本や診断書、財産目録などの書類を集める必要があり、海外にいると国内の書類収集や家庭裁判所とのやり取りに時間がかかりやすいという実務上のハードルはあります。海外在住のまま日本の親を支える際の全体的な進め方は海外から日本の親を支える方法、日々のやり取りの工夫は遠距離介護の進め方にまとめています。
判断能力があるうちに任意後見を検討する意味
海外在住の家族にとって、任意後見は「親が元気なうちに、誰に何を任せるかを決めておける」という点で検討する価値のある選択肢です。法定後見のように家庭裁判所が後見人を選ぶのを待つのではなく、本人と話し合いながら、信頼できる国内の親族や専門職をあらかじめ任意後見人として指定しておくことができます。ただし、任意後見契約を結んだだけでは効力が生じないこと、実際に判断能力が低下した段階で任意後見監督人選任の申立てという追加の手続きが必要になることは、法定後見と同様に見落とされやすい点です。判断能力が確かなうちに、口座や年金、保険の一覧化と合わせて検討しておくと、いざというときに家族が慌てずに動けます。
制度の選択に迷ったら専門家へ
法定後見と任意後見のどちらが適しているか、後見・保佐・補助のどの類型に該当しそうかは、本人の状態や家族構成、財産の内容によって個別に判断が分かれます。一般的な傾向として、すでに判断能力の低下が進んでいる場合は法定後見の申立てを、本人がまだ元気で将来に備えたい場合は任意後見契約の準備を検討することになりますが、実際の適否は弁護士・司法書士などの専門家、または最寄りの家庭裁判所の手続案内窓口に相談して確認することをおすすめします。地域の相談窓口としては地域包括支援センターとはも、後見制度の利用を含めた相談先の一つになります。
比較表
違いを一目で見比べられるよう、表にしています。
| 項目 | 法定後見(後見・保佐・補助) | 任意後見 |
|---|---|---|
| 開始のタイミング | 判断能力低下後、家庭裁判所への申立てにより開始 | 判断能力があるうちに契約、低下後に監督人選任で効力発生 |
| 申立人・当事者 | 本人・配偶者・四親等内の親族・市区町村長など | 本人と将来の任意後見人になる人(契約の当事者) |
| 本人の判断能力要件 | 後見=ほぼ喪失/保佐=著しく不十分/補助=不十分 | 契約時点では本人に契約締結能力があることが必要 |
| 後見人等を決める主体 | 家庭裁判所が選任(申立時の候補者が選ばれるとは限らない) | 本人が契約であらかじめ指定 |
| 監督人の要否 | 事案により後見監督人等が選任されることがある | 任意後見監督人の選任が効力発生の要件 |
| 令和6年の申立件数(家裁への終局事件) | 後見開始28,785件・保佐開始9,156件・補助開始3,026件 | 任意後見監督人選任874件 |
| 報酬の目安(家裁の報酬めやす) | 基本報酬 月額2万円〜6万円程度(管理財産額により変動) | 任意後見人は契約で自由に設定/監督人は月額1万円〜3万円程度 |
よくある質問
親が「まだそんなに困っていない」と後見の話を嫌がります 今のうちにできることはありますか?
判断能力があるうちにできることの一つが任意後見契約です。法定後見のように家庭裁判所が後見人を決めるのを待つのではなく、本人と話し合いながら将来任せたい人を公正証書契約で決めておけます。契約自体はすぐに効力を持つものではないため、「今すぐ後見人が付く」という誤解を避けながら準備を進めやすい方法です。
保佐や補助では、具体的に何ができて何ができないのですか?
保佐は不動産の売買や借金といった重要な財産行為に同意権・取消権が及ぶ類型、補助はそのうち家庭裁判所が定めた一部の行為にのみ同意権・取消権が及ぶ、より軽い類型です。日常の買い物程度は保佐・補助のいずれでも本人が単独で行えるのが原則で、後見のようにほぼすべての法律行為を代理する類型とは範囲が異なります。
家庭裁判所に申し立ててから後見が始まるまで、どれくらい待つことになりますか?
令和6年の司法統計では、2か月以内に終局した事件が全体の約72.0%、4か月以内が約93.8%でした。1か月以内に終わる事件も約38.4%あります。判断能力を確認する鑑定が必要になると期間は延びますが、鑑定が実施された事件は全体の約3.8%にとどまり、多くは診断書のみで審理が進みます。
私が申し立てても、後見人に選ばれるのは専門家で、自分はなれないのでしょうか?
可能性はありますが、令和6年の実績では、実際に成年後見人等に選ばれた人のうち親族は約17.1%にとどまり、約82.9%は弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職でした。財産額が大きい場合や親族間で意見が一致しない場合に、専門職が選ばれやすい傾向があります。
任意後見契約を結んだだけで、すぐに後見人として動けるのですか?
動けません。任意後見契約は公正証書で結んだ時点ではまだ効力が生じておらず、本人の判断能力が実際に低下したあと、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、監督人が選任された時点で初めて任意後見人としての活動が始まります。
任意後見監督人の報酬は誰がいつまで払い続けるのですか?
本人の財産から支払われ、任意後見が終了するまで継続します。家庭裁判所の報酬のめやすでは、管理財産額5,000万円以下で月額1万円から2万円程度、5,000万円超で月額2万5,000円から3万円程度とされていますが、実際の金額は事案ごとの家庭裁判所の審判で決まります。
海外に長期滞在している子でも、親の法定後見を家庭裁判所に申し立てることはできますか?
できます。申立人になれるのは本人、配偶者、四親等内の親族などで、居住地は要件になっていません。ただし戸籍謄本や診断書など必要書類を集めるのに、海外からだと国内より時間がかかりやすい点は考慮しておく必要があります。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
- 成年後見制度の種類|成年後見はやわかり(厚生労働省, curl verified 200)
- 任意後見制度とは(手続の流れ、費用)|成年後見はやわかり(厚生労働省, curl verified 200)
- 成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A(法務省, curl verified 200)
- 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要(裁判所, curl verified 200)
- 任意後見監督人選任|裁判所(裁判所, curl verified 200)
- 成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)(最高裁判所事務総局家庭局, curl verified 200)
- 成年後見人等の報酬額のめやす(東京家庭裁判所, curl verified 200)
- Q22.任意後見契約公正証書を作成する費用(日本公証人連合会, curl verified 200)
- 民法(後見・保佐・補助に関する規定)(e-Gov法令検索, curl verified 200)
- 任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索, curl verified 200)
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
