「そろそろ親の介護を考えないといけないかもしれない」。そう感じたとき、何から手をつければいいのか。実は、順番はほぼ決まっています。①状況の整理 → ②地域包括支援センターに相談 → ③要介護認定の申請 → ④ケアプランを作ってサービス開始。このガイドでは、この4ステップに沿って、つまずきやすいポイントと家族側の準備を解説します。
介護の全体像と困りごとの整理
親の介護は、この順番で進む
親の介護は、突き詰めると「公的な手続きの流れ」と「家族の合意づくり」の2本立てです。手続きの側の流れは全国共通で、次のようになっています。
- ステップ1:親の状況を1枚のメモに整理する(家族側の準備)
- ステップ2:親の住所地の地域包括支援センターに相談する(無料)
- ステップ3:市区町村に要介護認定を申請する(認定までおおむね1か月)
- ステップ4:ケアマネジャーとケアプランを作り、サービス開始
- 並行して:兄弟の役割分担とお金のルールを決めておく
ステップ1:まず「いま何に困っているか」を1枚にする
いきなり施設を検索したり、介護用品を買い込んだりする前に、親のいまの状態を書き出すことから始めましょう。あとのすべてのステップで、このメモが効いてきます。
- 基本情報:住所(=手続きの窓口になる自治体)、年齢、一人暮らしかどうか
- 健康:持病、飲んでいる薬、かかりつけ医、最近の入院
- 暮らし:食事、入浴、掃除、買い物、お金の管理で「できていること/怪しいこと」
- 気になった出来事:転倒、物忘れ、近所からの指摘などを日付つきで
- 家族:誰がどこに住み、誰が動けて、誰が決めるのか
公的サービス開始までの手続き
ステップ2:地域包括支援センターに相談する
メモができたら、親の住所地を担当する地域包括支援センターに連絡します。高齢者の暮らし全般の公的な相談窓口で、相談は無料。家族だけの相談も、遠方からの電話相談も受け付けています。
ここで「介護保険を申請すべき段階か」「その前に使える地域のサービスはあるか」の見立てをもらえます。本人が「介護なんて要らない」と言っている段階でも、家族として相談しておく価値は十分にあります。担当センターは「市区町村名+地域包括支援センター」で検索するか、市役所・区役所に電話すれば教えてもらえます。
地域包括支援センターは全国に約5,400か所(支所を含めると約7,400か所)あり、おおむね中学校区ごとに担当エリアが決まっています。社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーの3職種が配置されているので、「お金のこと」「体のこと」「手続きのこと」のどれを相談しても、対応できる専門職につながります。認知症が疑われるのに受診を拒む、といった家族だけでは動かしにくいケースでも、初期集中支援チームにつなぐなど、最初の一手を一緒に踏み出してくれます。
ステップ3:要介護認定を申請する
介護保険のサービスを使うには要介護認定が必要です。申請は市区町村の窓口へ。本人だけでなく家族が代行でき、地域包括支援センターの支援も受けられます。
申請後、調査員による自宅訪問と主治医の意見書を経て、おおむね1か月で結果(要支援1・2/要介護1〜5)が出ます。ここでの最大の注意点は、調査の日に親が「できます」と張り切ってしまう問題。ステップ1のメモを調査員に渡し、できれば家族が立ち会って、普段の様子を補足してください。認定は申請しないと始まらず、遡って使えるのは申請日まで。「まだ早いかな」と思う段階が、実は申請のちょうどいいタイミングです。
認定の中身も知っておくと、結果に納得しやすくなります。訪問調査の74項目と主治医意見書をもとに、まずコンピュータによる一次判定が出て、次に保健・医療・福祉の専門家でつくる介護認定審査会の二次判定で最終的な区分が決まります。認定には有効期間があり(新規は原則6か月、状態により3〜12か月)、期限ごとに更新します。そして「認定を待つ間はサービスを使えないのか」という不安には、暫定ケアプランという答えがあります。申請さえ済ませれば、ケアマネジャーが想定される区分に合わせて暫定のプランを組み、結果が出る前から訪問介護やデイサービスを始められます(想定より認定が軽いと自己負担が増える点だけ要確認)。離れて住む家族・海外在住の家族にとって、この「申請日から動ける」仕組みは、帰国のタイミングを待たずに支援を立ち上げられる大きな利点です。
ステップ4:ケアマネジャーとプランを作り、サービス開始
認定が出たら、居宅介護支援事業所からケアマネジャーを選び、ケアプランを作ってもらいます。ケアマネジャーへの依頼は無料です。
訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具のレンタル、手すりの設置補助と、プランの道具立ては豊富です。家族が遠方なら、その事情と希望する連絡方法を最初に伝えること。プランは一度作って終わりではなく、状態が変われば見直せます。月1回のモニタリング訪問があるので、「変化があれば教えてほしい」とお願いしておきましょう。
費用の天井も最初に押さえておきましょう。要介護度ごとに、1か月に介護保険で使えるサービスの上限(区分支給限度基準額)が決まっています。令和6年度ではおおむね要支援1の約5万円から要介護5の約36万円までの幅で(単位×約10円)、この範囲内なら自己負担は所得に応じて1〜3割、上限を超えた分は全額自己負担になります。さらに1か月の自己負担そのものにも上限があり(高額介護サービス費。一般的な所得の世帯で月44,400円)、超えた分はあとから払い戻されます。家賃・食費・保険外サービスは別枠ですが、「保険のサービス部分は青天井ではない」と知っておくと、ケアマネジャーが上限内でプランを組む理由も腑に落ちます。
家族の分担と本人の気持ち
並行してやる:兄弟の分担とお金のルール
手続きと同じくらい大切なのが家族側の体制です。決めごとを曖昧にしたまま進むと、特定の一人(多くは近くに住む人)に負担が集中し、あとで関係がこじれます。
- 役割を言葉にする:現地対応・お金の管理・情報集約と共有を、誰がどれを持つか決める
- お金の原則:介護費用は親の年金・資産から。不足分の分担と承認ルールを文書に
- 働き方:介護休業(通算93日・分割可)などの制度を確認。辞める前に使う
- 報告のリズム:週1回・同じ形式の短い共有で、全員が同じ情報を見る
- 見直しの引き金:「転倒したら」「入院したら」体制を見直す、と先に合意しておく
本人が嫌がるとき・まだ元気なとき
「介護の話なんてまだ早い」と本人に拒まれるのは、ごく普通のことです。説得を急ぐ必要はありません。
情報の整理と地域包括への相談は、本人の同意がなくても進められます。サービスの導入は、「介護」ではなく「家事の手伝い」「お風呂が楽になる」など本人の困りごとに寄せた言い方で、小さく始めるのがコツです。そしてまだ元気なうちにできる最大の備えは、お金と希望の話を少しずつしておくこと。元気なうちの1回の会話は、危機のさなかの10回の会話に勝ります。
話の口火を切りにくいときは、国が「人生会議(ACP)」という名前で、もしものときにどう過ごしたいかを家族と話し合っておくよう呼びかけていることを思い出してください。改まった場でなくてよく、「最近ご近所が大変だったらしいね」と他人の話から入ると、本人も身構えずに話せます。エンディングノートのような記入式の冊子を渡して、本人のペースで埋めてもらうのも、対面の重さを避けられる良い方法です。
お金の制度と遠距離・相談先の活用
使えるお金と仕事の制度を、先に知っておく
介護はお金と時間の問題でもあります。負担を軽くする制度は、知らないと使えないものばかり。早めに把握して、申請の段取りに入れておきましょう。
働きながら介護する人には、介護休業(対象家族1人につき通算93日・3回まで分割可)に加えて、休んだ期間の賃金の約67%が支給される介護休業給付金があります(雇用保険から、原則として事業主経由でハローワークに申請)。さらに年5日(対象家族が2人以上なら10日)の介護休暇、残業の免除や短時間勤務の請求権も法律で定められています。介護はある日突然始まり、何年続くか読めません。だからこそ、初動でいきなり仕事を辞めてしまうと、収入も社会とのつながりも失い、かえって介護を支えきれなくなります。「辞めるしかない」と思い込む前に、これらの制度の利用を勤務先に具体的に相談するのが先決です。
費用面では、1か月の自己負担に上限を設ける高額介護サービス費のほか、医療と介護の自己負担を1年単位で合算して払い戻す高額医療・高額介護合算制度、所得の低い人の施設での食費・居住費を軽くする特定入所者介護サービス費(補足給付)などがあります。親の収支を見える化したうえで、子世帯の家計を削る前に、こうした軽減制度の申請を先に済ませるのが鉄則です。
離れて住む家族・海外在住の場合の進め方
ここまでの4ステップは、家族が近くにいなくても大半を動かせます。海外や遠方からでも、最初に「現地で誰が動けるか」を地図にしておくことが要になります。
情報の整理(ステップ1)と地域包括への相談(ステップ2)は、電話とオンラインで完結します。一方で、認定調査の立会いや契約、いざというときの安否確認には、日本側の手が要ります。親族・近隣・友人のうち「誰が鍵を預かり」「誰が当日駆けつけ」「誰が夜間に連絡を受けるか」を、あいまいなままにせず、本人たちの明確な承諾を取って決めておきましょう。
もう一つ、元気なうちにしておきたいのがお金と判断の備えです。日本の金融機関は本人の判断能力に疑いが生じると口座を制限することがあり、認知症が進んでからでは手続きが一気に重くなります。銀行の代理人カードや、判断能力があるうちに将来の後見人を指定する任意後見、希望をまとめておくエンディングノートなど、軽い備えを先にしておくと、危機のさなかの選択肢が大きく変わります。
無料窓口で足りる部分と、JCCを使う部分
初動の道順そのもの、つまり状況を整理して地域包括支援センターに相談し、要介護認定を申請してケアプランにつなぐ流れは、無料の公的窓口だけで進められます。JCCがお役に立つのは、その手前で何を先にやるかの優先順位を一緒に詰めたいとき、家族の状況を英語に整理して海外の家族と足並みをそろえたいとき、海外在住で日本側の手が要る場面を代わって動いてほしいとき、そして親が相談自体を嫌がって切り出し方に迷うときです。具体的な担当範囲は、次の対照表で確かめてください。
まず無料窓口に当たり、それでも判断や現地対応に行き詰まる場面が出てきたら、その部分だけJCCにお声がけください。
| 地域包括支援センター等(無料)でできること | JCCに相談したほうがよいこと |
|---|---|
| 相談先・認定申請・サービス開始までの順番の案内 | 限られた時間で何から手をつけるか、優先順位の壁打ち |
| 要介護認定の申請の代行や、申請手続きの支援 | 家族の状況を英語で整理し、海外の家族と認識をそろえる準備 |
| 家族だけ・遠方からの電話相談の受付 | 海外在住で日本側が動けないときの、初動の代行と伴走 |
| 本人の同意がない段階での家族からの相談 | 親が相談を嫌がるときの、切り出し方や同席の組み立て |
よくある質問
親の介護は、結局何から始めればいいですか?
①親の状況を1枚のメモに整理し、②親の住所地の地域包括支援センターに相談する。この2つが最初の一歩です。そこから要介護認定の申請、ケアプラン作成へと進みます。
要介護認定はどのタイミングで申請すべきですか?
「まだ早いかな」と感じる段階での申請をおすすめします。認定までおおむね1か月かかり、遡って使えないため、必要になってからでは支援の開始が遅れます。申請して認定されても、サービスを使う義務はありません。
離れて住んでいても進められますか?
進められます。地域包括支援センターへの相談も認定申請も、家族が遠方から動かせます。詳しい体制づくりは遠距離介護のガイドにまとめています。
介護のために仕事を辞めるべきですか?
安易な介護離職はおすすめしません。まず介護休業(通算93日・分割可)などの制度で時間を確保し、その間に公的サービス中心の体制を整えるのが現実的です。
費用は誰が払うものですか?
原則は親自身の年金・資産からです。高額介護サービス費などの負担軽減制度も活用し、子ども世帯の家計を削る前に、親の収支の見える化と制度の申請を先に行いましょう。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-06-21.
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
