65歳以上同士の「老老介護」は世帯の63.5%を占め、介護していた親が倒れると残された要介護の親の生活が一気に立ち行かなくなります。入院対応と並行して動かせる、最初の72時間の手順を整理しました。
老老介護の実態
老老介護世帯が6割を超える現状
厚生労働省の2022年(令和4年)国民生活基礎調査によると、在宅で要介護者等がいる世帯のうち、同居している主な介護者と要介護者がともに65歳以上である「老老介護」の世帯は63.5%にのぼり、3年前の調査(59.7%)から3.8ポイント上昇して過去最高を更新しました。さらに、介護する側・される側の双方が75歳以上という「超老老介護」といえる世帯も35.7%を占め、3年前の33.1%から増えています。核家族化が進み子世代と同居しない高齢世帯が増えたこと、平均寿命が延びて配偶者同士が高齢のまま介護を担う期間が長くなったことが背景にあります。海外に住む家族から見ると、日本にいる高齢の親同士がお互いを支え合っている状態は「まだ何とかなっている」と映りがちですが、統計上はすでに多数派の形になっています。
老老介護が広がっている背景
老老介護がここまで多数派になった背景には、いくつかの要因が重なっています。子世代が離れた地域や海外で暮らす核家族化が進み、同居する家族の頭数自体が減っていること。平均寿命が延び、70代・80代になってからも配偶者を自宅で介護し続ける期間が以前より長くなっていること。晩婚・晩産の影響で、子世代がまだ現役で働いている時期に親の介護が重なりやすいこともあります。結果として、要介護の親を支えているのが同じく高齢の配偶者だけ、という構図が珍しくなくなりました。この構図では、介護している側の体力・気力の余力そのものが乏しく、無理を重ねた末に本人が倒れるリスクが常につきまといます。
介護者が倒れて生じる二重の危機
老老介護の家庭で介護していた側(多くは配偶者、時に高齢の子)が脳卒中や心疾患などで倒れて入院すると、危機は1つではなく2つ同時に発生します。1つ目は倒れた本人の治療・入院対応そのもの。2つ目は、それまで介護を受けていた要介護の親(または配偶者)が、介護者を失って自宅にひとり取り残されるという危機です。この2つ目の危機は見落とされやすく、家族が病院対応に気を取られている間に、残された要介護の親の食事・服薬・排せつの介助が数時間から半日単位で滞ってしまうことがあります。認知症がある場合は、状況の変化への不安から徘徊や混乱が強まることもあります。海外在住の家族にとっては、どちらの危機にどう関与すればよいか分からないまま時間だけが過ぎてしまう場面です。日頃からの備え方は遠距離介護の進め方でも扱っていますが、ここでは実際に倒れた瞬間からの動き方に絞って整理します。
きっかけになりやすい出来事を知っておく
介護していた側が倒れるきっかけは、脳卒中や心筋梗塞のような急性の疾患だけではありません。腰痛や膝の痛みを我慢しながら移乗介助を続けた結果の転倒・骨折、慢性的な睡眠不足からくる体調悪化、介護と自身の持病の治療が両立できずに悪化するケースなど、じわじわと進行してから急に倒れる形も多く見られます。「まだ大丈夫」と本人が言い続けている段階から、家族が定期的に電話や訪問で様子を確認し、少しでも訪問介護やデイサービスを併用してもらうことが、共倒れそのものを遠ざける最初の手立てになります。
24時間の初動
救急搬送の連絡を受けた直後にすること
介護していた親が救急搬送されたという連絡を受けたら、まず搬送先の病院名・診断名(分かる範囲で)・現在の意識状態を確認し、次に「残された親は今どこで誰といるか」を確認します。近隣に他の家族や親族がいなければ、要介護の親が数時間から一晩、ひとりで過ごすことになる可能性があります。日本国内に他のきょうだいや親族がいる場合は、まず誰か1人が現地に向かえるか手配し、いなければ次のステップである地域包括支援センターへの連絡を急ぎます。海外にいて即日渡航できない場合の一時帰国の判断材料は一時帰国のタイミングと頻度の考え方、渡航の実務は親の入院で緊急帰国するときの動き方で扱っています。
地域包括支援センターへの一報
要介護認定を受けているかどうかにかかわらず、まず連絡すべき窓口は住所地の地域包括支援センターです。地域包括支援センターには保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが配置され、高齢者の生活全般の相談を総合的に受け付けています。「介護していた家族が倒れて入院し、残された高齢の親をひとりにできない」という状況を伝えれば、緊急性の高い相談として優先的に動いてもらえる可能性があります。すでにケアマネジャーが付いている場合は、地域包括支援センターと並行してケアマネジャーにも同じ内容を伝え、既存のケアプランをどう緊急対応に切り替えられるか相談します。ケアマネジャーの役割の全体像はケアマネジャーの役割ガイドにまとめています。
独居になった親の安全確認
親族も専門職もすぐには動けない時間帯(深夜・早朝など)が生じる場合は、まず本人の安全確保を最優先にします。服薬が必要な時間の有無、火の元、転倒しやすい動線を確認し、可能であれば近隣住民や民生委員に一時的な見守りを頼めないか探ります。見守り機器やセンサーを事前に導入している家庭であれば、この段階で異常検知の履歴を確認する材料になります。既存の見守りサービスの選び方は高齢者見守りサービスの比較ガイドで扱っています。
何を誰に伝えるかを整理しておく
初動の電話は気が動転した状態でかけることが多く、必要な情報が抜け落ちがちです。地域包括支援センターやケアマネジャーに伝えるべき最低限の内容は、①残された親の要介護度・認知症の有無、②現在ひとりでどのくらいの時間を過ごすことになりそうか、③普段利用しているサービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイなど)の有無と担当事業所名、④かかりつけ医と服薬中の薬、の4点です。これをメモにまとめてから連絡すると、相手も対応の優先度を判断しやすくなります。海外にいる家族がこの情報を事前に一覧にして共有しておくだけでも、緊急時の初動が大きく早まります。
緊急の受け皿
緊急ショートステイという枠組み
要介護認定を受けている親であれば、まず検討すべき受け皿は短期入所(ショートステイ)の緊急利用です。介護保険制度には、ケアプランで事前に計画されていない利用者を緊急に受け入れた事業所を評価する「緊急短期入所受入加算」の仕組みがあり、原則として受け入れた日から7日、家族側にやむを得ない事情がある場合は14日を目安に、計画外でも短期入所を利用できる運用が想定されています(厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会資料)。実際に空きがあるかどうかは施設・時期によって差が大きいため、ケアマネジャーまたは地域包括支援センター経由で近隣の複数施設に空床の確認を急いでもらうのが現実的です。ショートステイの費用や利用の基本的な仕組みはショートステイ(短期入所)の使い方ガイドで解説しています。
要介護認定が済んでいない・切れている場合の暫定ケアプラン
老老介護の家庭では、残された親がまだ要介護認定を受けていない、あるいは認定の更新手続きが済んでいないケースもあります。この場合でも、認定結果が確定する前にサービス利用を始める「暫定ケアプラン」という仕組みがあります。ケアマネジャーが本人の状態から見込まれる要介護度を想定してケアプランを作成し、市区町村に居宅サービス計画作成依頼届を提出することで、認定結果を待たずに訪問介護やショートステイの利用を先に始められます。ただし、認定結果が「非該当」となった場合は保険給付を受けられず、利用したサービス費用が全額自己負担になるリスクがある点は留意が必要です。急激な状態悪化や退院が迫っているなど、認定を待てない緊急性が高い場面で使われる仕組みなので、ケアマネジャーに「暫定でよいので今すぐ動いてほしい」と明確に伝えることが重要です。
ショートステイの費用感を知っておく
緊急利用であっても、費用の仕組みは通常のショートステイと基本的に同じです。介護保険の自己負担割合(多くの場合1割)に加え、食費・居住費が実費相当でかかり、1泊あたりの自己負担はおおむね数千円程度が目安になります。低所得世帯では、負担限度額認定によって食費・居住費が軽減される場合もあるため、初めて利用する場合はケアマネジャーに認定の有無も併せて確認しておくと安心です。医療的な管理やリハビリが必要な状態であれば、老健や療養病床が提供する短期入所療養介護(医療型ショートステイ)が候補になることもあり、この使い分けもショートステイ(短期入所)の使い方ガイドで扱っています。
訪問介護の緊急増回という選択肢
すでに訪問介護(ホームヘルプ)を利用している場合は、既存のケアプランの範囲内で訪問回数を一時的に増やせないか、担当のケアマネジャー・訪問介護事業所に相談します。区分支給限度基準額の余裕があれば、追加の自己負担なしで増回できることもあります。限度額を超える分は全額自己負担になりますが、介護していた側が退院するまでの数日〜数週間に限った臨時対応として検討する価値はあります。訪問介護でカバーしきれない夜間の不安がある場合は、24時間・夜間の在宅介護ガイドも参考になります。
やむを得ない事由による措置という最終手段
親族が誰も動けず、ケアマネジャーも付いておらず、契約に基づくサービス利用の手配が間に合わない場合は、市区町村が老人福祉法に基づき職権で施設入所や訪問介護の利用を決定する「やむを得ない事由による措置」という制度があります。これは本来、虐待や身寄りがないケースなど契約による介護保険サービス利用が著しく困難な高齢者を守るための最終的な仕組みですが、老老介護で介護していた側が突然倒れ、残された親に契約手続きを行える親族が本当にいない緊急事態でも、市区町村の高齢福祉担当課・地域包括支援センターに相談する価値があります。使えるかどうかは自治体の判断によるため、まずは事情を伝えて相談することが出発点になります。
海外からの関与
時差の中でも進められる3つの手続き
海外にいてすぐ渡航できない場合でも、電話・メール・オンライン面談で進められる手続きがあります。1つ目はケアマネジャー・地域包括支援センターへの状況共有と、緊急対応の方針についての同意。2つ目は、暫定ケアプランや緊急ショートステイの利用にあたって必要になる契約書類への同意(多くの事業所は家族の意思確認をメールや電話でも受け付けます)。3つ目は、介護費用の一時的な立て替えが必要になった場合の送金手配です。契約者本人になれるか・送金の実務は海外から日本の親を支える方法にまとめています。
一時帰国までのケアプラン調整
一時帰国を決めた場合も、渡航までには数日かかるのが通常です。その間、ケアマネジャーと連絡を取り合い、緊急ショートステイや訪問介護増回で当面をしのぎながら、帰国後にどこまで自分が対応し、どこから専門職に任せるかを事前にすり合わせておくと、到着後の混乱を減らせます。一時帰国のタイミングを普段からどう考えておくかは一時帰国のタイミングと頻度で扱っています。
老老介護の再発を防ぐ長期の備え
介護していた親が回復して自宅に戻った後も、同じ老老介護の構造がそのまま続けば、再び共倒れが起きるリスクは残ります。落ち着いたタイミングで、要介護認定の見直し、デイサービスや訪問介護の定期利用による介護者の負担軽減、緊急連絡先リストの整備(地域包括支援センター・担当ケアマネジャー・かかりつけ医の連絡先を家族全員が共有できる状態にする)を検討することをおすすめします。今回どの窓口が実際に機能したか・しなかったかを家族内で振り返っておくと、次に同じような事態が起きたときの初動が早くなります。
退院後の生活をどう組み立て直すか
倒れた親自身も、退院後は以前と同じペースで介護を続けられるとは限りません。本人の要介護度・要支援度の再認定を申請し、これまで担ってきた役割の一部を訪問介護やデイサービスに移す前提で、ケアプランをケアマネジャーと一緒に見直すことをおすすめします。老老介護そのものをやめることは難しくても、介護している側が「ひとりで全部背負わない」体制に切り替えられれば、次に同じような事態が起きたときの被害を小さくできます。海外にいる家族は、帰国のたびにこの体制が実際に機能しているかを確認する役割を担うとよいでしょう。
比較表
どこが分かれ目になるかを、次の表で確認できます。
| 残された親の状態 | 最初の72時間で使える受け皿 | 手続きの入口 |
|---|---|---|
| 自立寄り(見守り中心) | 近隣・民生委員による一時的な見守り、見守り機器の履歴確認 | 地域包括支援センターへの相談 |
| 要支援・軽度要介護 | 訪問介護の緊急増回、デイサービスの臨時利用相談 | ケアマネジャー、地域包括支援センター |
| 要介護・認知症あり | 緊急ショートステイ(緊急短期入所受入加算の枠組み)、暫定ケアプランでの前倒し利用 | ケアマネジャー経由での施設空床確認、市区町村への暫定ケアプラン届出 |
| 頼れる親族が本人以外にいない | やむを得ない事由による措置の相談 | 市区町村の高齢福祉担当課、地域包括支援センター |
よくある質問
介護していた母が倒れて入院しました 残された認知症の父を今夜だけでもひとりにできない場合、まず誰に電話すればよいですか
住所地の地域包括支援センターへの連絡が最初の窓口です。すでにケアマネジャーが付いている場合は同時に連絡し、緊急ショートステイや訪問介護の増回など、その場で使える受け皿がないか確認してもらいます。深夜など窓口の対応時間外は、まず本人の安全確保(服薬・火の元・転倒防止)を優先し、翌朝一番に相談します。
父にまだ要介護認定が出ていません この状態でも緊急でサービスを使えますか
使える場合があります。認定結果が確定する前でも「暫定ケアプラン」を作成し、見込まれる要介護度をもとに訪問介護やショートステイの利用を先に始める仕組みがあります。ただし、認定結果が非該当になった場合は費用が全額自己負担になるリスクがあるため、ケアマネジャーとよく相談してください。
近くの施設に問い合わせても、ショートステイの空きがないと言われました 他に方法はありますか
地域包括支援センターやケアマネジャーに、緊急短期入所受入加算の枠組みを使える近隣の他施設がないか広く確認してもらってください。それでも見つからない場合は、訪問介護の緊急増回や、頼れる親族が本当にいない場合の市区町村への相談(やむを得ない事由による措置)も選択肢になります。
海外に住んでいて、両親が老老介護をしていました 今回のように介護していた側が倒れることは、事前にどう備えておけばよかったのでしょうか
完全に防ぐことは難しいですが、要介護認定を早めに受けておく、訪問介護やデイサービスを日頃から少しでも利用しておく、緊急連絡先(地域包括支援センター・ケアマネジャー・かかりつけ医)を家族で共有しておくことで、いざというときの初動を早められます。今回の対応が落ち着いたら、この3点を見直すことをおすすめします。
私は海外在住で、すぐには日本に行けません 電話やメールだけで進められる手続きはありますか
あります。ケアマネジャーや地域包括支援センターへの状況共有、緊急ショートステイ利用にあたっての同意確認、費用の一時的な送金手配は、渡航前でも電話・メール・オンライン面談で進められることが多いです。契約者になれるかどうかは事業所により異なるため、個別に確認してください。
やむを得ない事由による措置とは、具体的にどんな場合に使える制度ですか
契約に基づく介護保険サービスの利用が著しく困難な高齢者を、市区町村が老人福祉法に基づき職権で施設入所や在宅サービス利用につなげる制度です。本来は虐待や身寄りがないケースを想定した最終的な仕組みですが、契約手続きを行える親族が本当にいない緊急事態では、市区町村の高齢福祉担当課や地域包括支援センターに相談する価値があります。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-05.
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
