親の介護が始まったとき、まず頭をよぎるのが「仕事を辞めるしかないのか」という問いです。介護を理由に仕事を辞める人は年間およそ10万人。そして辞めた多くの方が、収入・年金・再就職・孤立の面で「辞めなければよかった」と振り返ります。日本の制度は「辞めずに介護する」ことを前提に設計されています。このガイドでは、介護休業・介護休暇などの両立支援制度の使い方と、職場への伝え方、続けるための介護体制づくりを整理します。
鉄則はひとつ。辞める前に、制度を使い切る
介護離職には、あとから取り返しにくい代償があります。収入が途絶えるのは介護費用が増え始める時期と重なり、厚生年金の加入期間が止まり、数年後の再就職は想像以上に厳しくなります。そして介護が一人の肩に集中し、共倒れのリスクが上がります。
「辞めれば介護に専念できる」は、多くの場合うまくいきません。介護の負担を決めるのは、時間より体制だからです。介護保険のサービス、職場の両立支援制度、家族の役割分担。この3つを使い切る前の退職は、選択肢を狭めるだけになりがちです。どうしても働き方を変える必要があるときも、退職は最後の手段として、まず転職や勤務形態の変更を検討してください。
介護休業93日は「介護をする期間」ではない
法律上、家族1人につき通算93日まで、3回まで分けて介護休業を取れます。誤解されがちですが、この93日は自分で介護をするための期間ではなく、介護の体制をつくるための期間です。
93日を「自分が介護する期間」として使うと、休業が終わった日に振り出しに戻ります。有効な使い方は、要介護認定の申請、ケアマネジャーとの体制づくり、サービスの試行、家族での役割分担の合意など、「自分がいなくても回る仕組み」の構築に充てることです。休業中は雇用保険から介護休業給付金(賃金のおおむね67%)が支給されます。支給には条件があるため、勤務先の人事またはハローワークで確認してください。
日常を支える「小さい制度」を組み合わせる
介護休業のほかにも、日常の通院付き添いやケアマネ面談に使える制度があります。長期戦の両立は、むしろこちらの使いこなしで決まります。
- 介護休暇:年5日(対象家族が2人以上なら10日)。時間単位でも取得可能
- 残業の免除・深夜業の制限:請求すれば所定外労働を免除してもらえるしくみ
- 短時間勤務・フレックス・時差出勤など:事業主が用意する選択的措置から利用
- 2025年の法改正で、介護に直面したと申し出た従業員への制度の個別周知などが事業主に義務づけられ、「知らなかった」が起きにくくなりました
- 詳細な条件は雇用形態や勤務先の規定で異なります。人事・労務、または都道府県労働局が確認先です
職場への伝え方。言わない限り、何も始まらない
両立支援制度は、申し出てはじめて動きます。介護を隠して有給と気力でしのぐ働き方は、ある日突然続かなくなります。
伝える相手は直属の上司と人事。伝える内容は「介護に直面していること」「当面の見通し」「使いたい制度」の3点で十分で、親の病状を詳しく話す必要はありません。あわせてケアマネジャーには「自分は仕事を続ける」と明確に伝えてください。働く家族を前提にしたケアプラン(デイサービスの曜日、ショートステイの定期利用など)を組んでもらえるかどうかが、両立の成否を分けます。
「自分がいなくても回る」介護体制のつくり方
平日の日中を介護保険のサービスがカバーし、家族は判断と週末の関わりを受け持つ。両立できている家庭の形は、おおむねこれに収れんします。
具体的には、デイサービスを週の柱にして入浴と昼食と見守りをまかせ、ヘルパーの訪問で家事の穴を埋め、月1回のショートステイで自分の休息を先に予定へ入れてしまう組み方です。夜間や緊急時が不安な場合は、見守り機器や定期巡回・随時対応型のサービスも選択肢になります。在宅でどこまで支えられるか、施設を考える目安はどこかは、「在宅介護と施設介護の比較」ガイドにまとめています。
それでも限界が見えたら
制度を使っても両立が崩れ始めたら、それは働き方ではなく介護体制を変えるサインです。我慢を積み増す前に、ケアマネジャーへの相談を。
状態が変わったのに介護度が軽いままなら区分変更の申請を、在宅の限界が近いなら施設の検討を、自分の心身が削れているなら家族会や地域包括支援センターへの相談を。「介護のために辞めます」と人事に言う前に、この3つを試したかを確認してください。辞める決断は、いつでもできます。辞めない選択肢は、体制があるうちにしか選べません。
よくある質問
介護休業中の収入はどうなりますか?
雇用保険の被保険者であれば、介護休業給付金として休業開始時賃金のおおむね67%が支給されます。支給要件や手続きがあるため、勤務先の人事またはハローワークで事前に確認してください。
介護休業を会社に断られることはありますか?
介護休業は法律にもとづく労働者の権利で、要件を満たす申し出を事業主は原則拒めません。取得を理由とする不利益な取り扱いも禁止されています。困ったときは都道府県労働局の相談窓口が使えます。
パートや契約社員でも介護休業を取れますか?
有期雇用の方も一定の要件を満たせば取得できます。要件は法改正で緩和されてきており、雇用形態だけで諦めず、勤務先か労働局に確認することをお勧めします。
93日で介護が終わらない場合はどうすればいいですか?
93日は介護を終えるための期限ではありません。体制をつくる期間です。休業中に介護保険のサービスと家族の分担を整え、復職後は介護休暇や残業免除などの日常的な制度と組み合わせて続けるのが基本形です。
公的な情報源
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
