在留証明は住民票、署名(サイン)証明は印鑑証明の代わりとして、日本大使館・総領事館で取得できます。手数料は在留証明1通1,200円・署名証明1通1,700円が目安で、署名証明は領事の面前でのサインが必須のため、原則として本人が公館へ出向く必要があります。
直面する壁
海外に住むと印鑑登録も印鑑証明もできなくなる
印鑑登録は、日本国内の市区町村が住民基本台帳に基づいて行う制度です。海外へ転出届を出すと住民票が除票され、その市区町村での印鑑登録も同時に失効します。つまり、海外に生活の本拠を移した時点で、それまで使っていた実印と印鑑証明書の組み合わせは使えなくなります。日本国内に住む家族であれば当たり前に使える印鑑証明書が、海外在住というだけで手に入らなくなる点は、実際に手続きが必要になるまで気づきにくい落とし穴です。転出届を出さずに住民票を残したまま海外に出ている場合は印鑑登録がそのまま有効なこともありますが、長期の海外赴任・移住で住民票を除票している場合は、この記事で扱う代替の証明を早めに確認しておく必要があります。
相続・不動産・銀行の手続きで証明を求められて困る
この壁に最初にぶつかりやすいのが、親の相続で遺産分割協議書に実印を押し、印鑑証明書を添付するよう求められる場面です。同じように、親名義の不動産を売却する登記手続きや、金融機関での口座解約・大口の払い戻しでも、本人確認の重みとして印鑑証明書相当の書類を求められることがあります。海外在住であることを理由に手続きを断られるわけではありませんが、代わりに何を提出すればよいかを知らないまま窓口や司法書士とのやり取りで足止めされるケースは少なくありません。とくに相続では、他の相続人が国内在住で先に手続きを進めようとしているのに、海外側だけ書類の準備が遅れて協議全体が止まってしまう、という事態も起こりがちです。委任状で代理人に手続きを任せる場合でも、委任状自体に印鑑証明書に相当する証明を添えるよう求められることが多く、海外在住家族の委任状ガイドで扱っている代理の話とあわせて、まずこの証明をどこで取るかを知っておく必要があります。
制度の中身
在留証明で住民票の代わりを揃える
在留証明は、日本国籍を持ち海外に生活の本拠を置いている人について、居住国を管轄する在外公館がその住所を証明する書類です。対象になるのは、海外に住民登録がない状態で実際に3か月以上住んでいる、またはその予定がある日本国籍者です。申請書式には2種類あり、形式1は申請時点の現在の住所のみを証明するもの、形式2は現在の住所に加えて過去の住所や同居している家族についても証明するものです。不動産登記のように現在の住所だけで足りる場面では形式1、相続手続きのように過去の居住歴や同居関係まで示す必要がある場面では形式2を求められることがあるため、どちらを取ればよいかは提出先に事前に確認するのが確実です。なお、日本国内の市区町村が発行する「不在住証明書」(申請時点でその市区町村に住民票が存在しないことを証明する書類)は、在外公館が発行する在留証明とはまったく別の書類です。相続登記で登記簿上の住所と死亡時の住所が異なる場合などに、国内の市区町村窓口で取得する書類であり、海外在住者の現在の住所を証明する在留証明と混同しないよう注意が必要です。
一部の在外公館では、在留届をオンラインシステム(ORRnet)で提出している人向けに、電子的に発給する在留証明(e-証明書)のオンライン申請・オンライン交付にも対応し始めています。窓口へ出向く回数を減らせる可能性がある仕組みですが、対応している公館や提出先が限られるため、利用できるかどうかは事前に確認してください。また、多くの証明書と同様に、提出先によっては発行から一定期間内のものを求められることがあるため、取得後は早めに提出先へ送るという段取りを組んでおくと安心です。
署名証明で印鑑証明の代わりを揃える
署名(サイン)証明は、申請者の署名(および拇印)が本人のものであることを、領事の面前で確認したうえで証明する書類で、日本国内の印鑑証明書に代わるものとして使われます。こちらにも2つの形式があります。形式1は、日本から送られてきた遺産分割協議書や委任状などの私文書に、申請者が領事の面前でサインし、在外公館発行の証明書と綴り合わせて割印する方式です。形式2は、綴り合わせる私文書を伴わず、申請者の署名そのものを単独で証明する方式です。相続登記のように「この書類に書かれたサインは本人のものだ」という一体性を示す必要がある場面では形式1が、委任状のように署名単体の証明で足りる場面では形式2が使われる傾向がありますが、どちらの形式が必要かは提出先の意向次第のため、事前確認を省略しないことが重要です。一時帰国のタイミングがあれば、日本国内の公証役場でも同種のサイン証明(公証人による認証)を受けられます。海外の公館へ出向く時間を作りにくい場合の選択肢として、後述する領事出張サービスとあわせて覚えておくとよいでしょう。
出生・婚姻・警察証明など、その他の証明にも触れておく
在外公館では、在留証明・署名証明のほかにも、出生や婚姻に関する証明、警察証明(日本国内の犯罪経歴に関する証明書の取次ぎ)といった手続きを取り扱っています。これらは相続や介護の場面で直接必要になる頻度は在留証明・署名証明ほど高くありませんが、婚姻要件具備証明書が国際結婚の手続きで、警察証明が現地でのビザ申請等で必要になることがあります。相続の場面でも、親の相続人の中に外国籍の配偶者や子がいる場合、その人の身分関係を示す書類として婚姻証明・出生証明の提出を求められることがあり、まったく無関係というわけではありません。海外での国際結婚や出生の届出をまだ済ませていない場合は、こうした証明の取得と並行して届出の要否も確認しておくと、後になって書類が足りず慌てる事態を避けられます。介護・相続の実務では在留証明・署名証明の2つを押さえておけば大半の場面をカバーできますが、公館の窓口業務としてこうした証明も並行して扱っている点、そして書類ごとに取扱いの窓口(領事班)が分かれている場合がある点は知っておくとよいでしょう。
行動に移す
相続・不動産・後見・年金・銀行、場面ごとにどの証明が要るか整理する
親の遺産分割協議書に加わる場合は、協議書に実印の代わりとしてサインし、署名証明(多くは形式1)を綴り合わせて添付するのが一般的です。あわせて、相続人としての現在の住所を示すために在留証明も求められることが多く、司法書士から「サイン証明と在留証明の両方」を案内されるのはこのためです。相続した親名義の不動産を売却する場合も同様に、登記手続きで在留証明(住所証明)と署名証明(印鑑証明の代わり)の両方が必要になるのが一般的です。買主側の決済スケジュールが決まっている不動産取引では、証明書の取得に時間がかかることが取引全体の遅延につながりかねないため、司法書士に依頼する時点で「海外在住のため証明の取得に日数がかかる」ことを早めに伝えておくと調整してもらいやすくなります。成年後見の申立てでは、海外在住の親族が申立人や後見人候補者になる場合に、在留証明で居住実態を示すよう家庭裁判所から求められることがあります。申立て自体は海外在住であることを理由に断られるものではありませんが、後見人候補者事情説明書や親族の意見書など提出書類が多いため、在留証明の取得もそのうちの一つとして早めに動く必要があります。
年金の現況届では、海外在住の受給者が提出する届出に在留証明書の添付が必要とされており、提出期限は誕生月の前後を目安に設定されます。提出が遅れると年金の支払いが一時停止されることがあり、後から届出をすればさかのぼって支払われるとはいえ、生活費が絡む海外在住者にとっては避けたい事態です。日本年金機構は、在外公館が電子的に発給する在留証明(e-証明書)を、e-Gov経由でオンライン提出する現況届に添付する方法も案内しており、対応できる場合は窓口へ出向く回数を減らせます。銀行手続きについては、残高照会程度は比較的柔軟に応じる金融機関がある一方、口座解約や大口の払い戻しなど重要度の高い取引では署名証明や在留証明の提出、あるいは本人への電話確認を求める金融機関があります。対応は金融機関ごとに異なるため、まずは該当の金融機関に個別に問い合わせるところから始める必要があります。
予約・持ち物・本人出頭という3つの前提を確認する
在外公館での証明取得は、多くの公館で事前予約制になっています。持ち物としてはパスポート、居住を示す書類(公共料金の請求書や賃貸契約書など)、手数料分の現地通貨が基本ですが、公館ごとに求める書類が異なるため、訪問前に該当公館のウェブサイトで最新の案内を確認しておく必要があります。ここで見落とされやすいのが、署名証明は領事の面前でサインすることそのものが証明の本質であるため、原則として本人が公館へ出向く必要があり、郵便による申請や家族・代理人による申請は認められていないという点です。在留証明についても、原則は本人による申請が基本ですが、やむを得ない事情がある場合に委任状による代理申請が案内されている公館もあり、可否は個別に公館へ確認する必要があります。「委任状さえあれば全部代わりに取ってきてもらえる」という思い込みで動くと、現地に着いてから出直しになりかねません。公館へ向かう前に、家族間で「誰が」「いつまでに」「どの証明を」取るのかを共有メモにしておくと、遠く離れた場所にいる家族同士でも進捗を確認しやすくなります。
公館まで遠い場合は領事出張サービスや一時帰国も検討する
国土が広い国や、日本人が多く住む都市から公館が離れている国では、日帰りで公館を訪問すること自体が難しい場合があります。この場合の選択肢の一つが、在外公館が年に数回、日本人の多い地方都市へ出向いて証明業務やパスポート更新を受け付ける領事出張サービスです。開催地・日程・予約方法(メールのみで電話予約不可としている館が多い)は公館ごとに案内されるため、居住地を管轄する公館のウェブサイトや在留届で定期的に確認しておくとよいでしょう。もう一つの選択肢は、一時帰国のタイミングに合わせて日本国内の公証役場でサイン証明(公証人による認証)を受ける方法です。次の一時帰国まで日程に余裕がある場合や、公館訪問より国内の公証役場のほうが動きやすい場合はこちらも検討する価値があります。いずれの方法でも、証明を受けてから実際の手続きに使うまでに郵送日数がかかるため、在外邦人の帰国準備ガイドや親のお金と権限のガイドで扱っている全体のスケジュール感とあわせて、余裕を持って動く必要があります。手数料は現地通貨での支払いになるため、訪問前に当日のレートで概算額を確認し、小銭を含めて用意しておくと窓口でのやり取りがスムーズになります。相続手続き全体の初動整理は親が日本で死亡したときの手続きガイド、身元保証が絡む場面は身元保証人がいないときの備え、遠距離介護全体の進め方は遠距離介護のガイドも参考になります。
比較表
違いを一目で見比べられるよう、表にしています。
| 証明書 | 主な用途 | 本人出頭・代理の可否 | 手数料の目安 |
|---|---|---|---|
| 在留証明(形式1) | 現在の住所証明(不動産登記・年金現況届など) | 原則本人。やむを得ない事情があれば委任状による代理を案内する公館もある | 1通1,200円相当(年金手続き目的は免除の場合あり) |
| 在留証明(形式2) | 現在+過去の住所・同居家族の証明(相続手続きなど) | 同上 | 1通1,200円相当 |
| 署名証明(形式1) | 遺産分割協議書等に綴り合わせて割印(相続登記で使われる傾向) | 本人のみ。郵送・代理は不可 | 1通1,700円相当 |
| 署名証明(形式2) | 委任状など単独の署名証明 | 本人のみ。郵送・代理は不可 | 1通1,700円相当(形式1・形式2とも同額) |
よくある質問
印鑑登録ができないので、海外在住のままでは相続の手続きを進められませんか?
進められます。印鑑証明書の代わりに、居住国の在外公館で発行してもらう署名証明を遺産分割協議書に添えるのが一般的な方法です。あわせて在留証明を住民票の代わりとして求められることも多く、司法書士に事前に必要書類を確認しておくと二度手間を防げます。
在留証明さえ取っておけば、署名証明は不要ですか?
いいえ、用途が異なります。在留証明は住民票の代わりに住所を証明するもの、署名証明は印鑑証明書の代わりに本人のサインを証明するものです。相続の遺産分割協議書のように両方を求められる場面もあるため、提出先に必要な組み合わせを確認してください。
署名証明は、日本にいる家族に代理で取りに行ってもらえますか?
できません。署名証明は領事の面前で本人がサインすることそのものが証明の内容になるため、代理人による申請は原則として認められていません。本人が在外公館へ出向く必要があります。
郵送で申請書と書類を送れば、署名証明を発行してもらえますか?
原則として郵送申請はできません。本人確認と面前でのサインが証明の目的のため、窓口へ直接出向く必要があります。在留証明についても、やむを得ない事情がある場合の委任状申請の可否は公館ごとに異なるため、個別の確認が必要です。
住んでいる国に大使館・総領事館がなく、訪問に何日もかかる場合はどうすればいいですか?
在外公館が地方都市へ出向いて証明業務を受け付ける領事出張サービスが利用できる場合があります。また、一時帰国のタイミングがあれば、日本国内の公証役場でサイン証明を受ける方法もあります。管轄公館のウェブサイトや在留届で開催情報を確認してみてください。
在留証明の形式1と形式2、どちらを取ればよいか分からないときはどうすればいいですか?
提出先が求めている内容によって変わります。現在の住所だけで足りる手続きでは形式1、過去の住所や同居家族まで示す必要がある相続手続きなどでは形式2を求められることがあるため、迷ったら提出先の窓口や担当の司法書士・弁護士に事前に確認してください。
「不在住証明書」と「在留証明」は同じものですか?
異なります。不在住証明書は日本国内の市区町村が「その住所に住民票が存在しない」ことを証明する書類で、相続登記で登記簿上の住所と実際の住所が異なる場合などに使います。在留証明は在外公館が海外在住者の現在の住所を証明する、まったく別の書類です。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
