制度ガイド

海外駐在中の親の介護|帰任・転職・遠隔継続の選び方

海外駐在中に親が要介護になっても、帰任・介護休業93日の活用・転職のどれを選ぶかは在留邦人約130万人の駐在員に共通する悩みです。会社との交渉手順と、決断を急がないための考え方を整理しました。

公開日
2026-07-11
最終更新日
2026-07-11
情報確認日
2026-07-11
出典
6件の一次情報・公的情報

海外駐在中に親が要介護になっても、帰任・介護休業93日の活用・転職のどれを選ぶかは在留邦人約130万人の駐在員に共通する悩みです。会社との交渉手順と、決断を急がないための考え方を整理しました。

初期対応

初期連絡で伝えるべき3つの情報

日本にいる親が倒れた、要介護認定の申請が必要になったという連絡が入った直後、駐在員がまず整理すべきは会社への伝え方です。「すぐ帰国したい」という気持ちが先に立ちますが、上司や人事に伝える段階では、①親の状態と緊急度(入院中か在宅か、生命に関わる状態かどうか)、②自分が今すぐ必要とする対応(数日の一時帰国か、それとも数週間単位の休業か)、③今後の見通しがまだ立っていないことを分けて伝えると、会社側も対応を検討しやすくなります。曖昧なまま「介護のため帰りたい」とだけ伝えると、会社側は緊急の一時帰国を求められているのか、長期の休業や帰任を求められているのかを判断できず、対応が後手に回りがちです。

一時帰国と介護休業の切り分け

多くの駐在員規程では、慶弔や家族の急病を理由とした数日程度の一時帰国と、法律上の権利として請求できる介護休業は別の枠組みとして扱われています。数日で日本の状況を確認したいだけであれば、まずは一時帰国の休暇制度を使い、その間に親の要介護度や必要な支援の全体像を把握するほうが動きやすいことが多いです。要介護認定の申請から認定までの流れは介護保険の基本ガイドで扱っていますが、駐在中は本人が窓口に出向けないため、日本にいる親族や地域包括支援センターとの連携が特に重要になります。相談窓口としての地域包括支援センターの役割も、一時帰国中に一度顔を合わせておくと後の連絡がスムーズになります。

海外駐在特有の初期制約

国内の遠距離介護と違い、駐在員には「今すぐ日本に戻れない」制約がいくつも重なっています。赴任契約に定められた任期の途中であること、子どもが現地校に通っていて学期の途中での転校が難しいこと、住宅契約が長期契約で途中解約に違約金が発生する場合があることなどです。これらは国内で通勤しながら遠距離介護をする場合にはない負担であり、遠距離介護の進め方ガイド海外から日本の親を支える方法を土台にしつつ、駐在特有の制約を踏まえて判断を組み立てる必要があります。

時差も初期対応を難しくする要因です。日本の役所や病院の窓口が開いている時間帯に、駐在先ではまだ深夜や早朝ということも珍しくありません。日本にいる親族に窓口対応を頼める場合はよいですが、頼れる親族が近くにいない、あるいは高齢の親自身が窓口とのやり取りに不安を抱えている場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーなど日本側の専門職と、時差を踏まえた連絡方法(メールでの経過共有、あらかじめ決めた曜日と時間帯の電話連絡など)を早い段階で決めておくと、駐在先から状況を追いやすくなります。

帰任交渉

帰任願いの出し方

正式に帰任を希望する場合、多くの会社では「帰任願い」または相当する社内申請の形で、直属の上司を通じて人事部門に希望を伝える流れになります。このとき重要なのは、希望の理由(親の介護)だけでなく、いつまでにどの程度の対応が必要かという時間軸を添えることです。「来月中に帰国したい」のか「今期末の定期異動のタイミングで戻りたい」のかによって、会社が用意できる選択肢は大きく変わります。介護を理由とする帰任は、多くの会社で通常の異動よりも配慮される傾向がありますが、最終的な人選や後任の手当ては会社の人事権の範囲であり、希望どおりの時期に必ず帰任できるとは限りません。

「一時的な配慮」と「正式な帰任」の違い

会社によっては、正式な帰任辞令を出すまでの間、在宅勤務やオンラインでの業務継続、後任が決まるまでの一時的な在留延長といった「つなぎの配慮」で対応するケースがあります。これは本人にとっては帰任が決まっていない不安定な状態に感じられますが、会社側からすると後任探しや引き継ぎに一定の時間が必要という事情によるものです。この段階では、いつまでに正式な帰任の可否を判断してもらえるかという期限を人事に確認しておくと、次の一時帰国や介護休業の計画を立てやすくなります。仕事と介護の両立に関する社内制度の全体像は仕事と介護の両立ガイドにまとめていますが、駐在員の場合はここに赴任契約特有の交渉が加わる点を踏まえておく必要があります。

転勤内示のタイミングと交渉の余地

親の介護と時期が重なりやすいのが、次の任地への転勤内示です。既に次の赴任地への内示が出ている状態で親の介護が必要になった場合、内示の撤回や延期を交渉できるかどうかは会社の裁量による部分が大きく、一律の答えはありません。ただし、内示が確定辞令になる前の段階であれば交渉の余地が残っていることが多いため、介護の状況を早めに、かつ具体的に伝えることが交渉の土台になります。判断に迷う場合は、社内の人事担当だけでなく、労働組合や外部の社会保険労務士に相談し、自社の海外駐在員規程に何が定められているかを確認しておくと安心です。

会社によっては、人事部門とは別に駐在員向けの相談窓口や産業保健スタッフを設けている場合があります。介護の事情を伝える相手を人事担当1人に絞らず、複数の窓口に同じ状況を共有しておくと、担当者の異動や引き継ぎ漏れで話が振り出しに戻ってしまうリスクを減らせます。特に転勤内示や後任人事が絡む交渉は複数の部署にまたがることが多いため、誰にいつ何を伝えたかを自分でも記録しておくことをおすすめします。

制度活用

育児・介護休業法の適用範囲と海外駐在員

日本の育児・介護休業法は、国内の労働法規と同じく、原則として日本国内で働く労働者を対象に組み立てられた制度です。海外に勤務地が移った駐在員にこの法律がそのまま適用されるかどうかは、雇用契約がどこにあるかによって扱いが分かれます。一般的には、日本の会社との雇用契約を維持したまま海外の拠点で働く「在籍出向」の場合と、現地法人に雇用契約そのものが移る「転籍」の場合とで、会社の判断が異なることが多いとされています。自分がどちらの形態で赴任しているかは、駐在員規程や出向辞令の記載で確認できます。

育児・介護休業法自体の適用可否にかかわらず、会社が任意に自社の就業規則で介護休業に準じた扱いを認めている場合もあるため、法律上の権利かどうかと、自社で実際に使える制度かどうかは分けて確認する必要があります。個社の駐在員規程・出向規程は会社ごとに大きく異なるため、必ず自社の人事・労務担当に確認してください。

在籍出向と転籍で変わる適用の考え方

在籍出向で日本の雇用保険に加入し続けている場合、一時帰国して実際に親の介護にあたる期間について、会社の制度上介護休業として扱ってもらえれば、雇用保険からの介護休業給付金の対象になり得ます。一方、転籍によって現地法人の雇用契約に切り替わり、日本の雇用保険を脱退している場合は、そもそも介護休業給付金の受給要件(雇用保険の被保険者であること)を満たさなくなるため、対象外となるのが一般的です。自分の雇用保険の加入状況は、赴任前に受け取った雇用保険被保険者証や、人事からの案内で確認しておくとよいでしょう。

介護休業給付金の受給条件と一時帰国への影響

介護休業給付金は、対象家族1人につき通算93日を上限に、3回まで分割して受給できる制度で、支給額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で計算されます。分割取得ができる点は駐在員にとって特に有用で、初回は一時帰国して親の状態を見極めるための短期間、二回目以降は要介護度が上がった段階でのまとまった対応、というように使い分けることができます。ただし支給には雇用保険の被保険者期間などの要件があり、休業開始前の賃金支払基礎日数の条件も定められているため、自分が要件を満たすかはハローワークまたは会社の労務担当に個別に確認する必要があります。介護のための一時帰国にかかる交通費を抑える方法は介護の交通費を抑える割引ガイドでも扱っています。

介護休業給付金だけで駐在中の生活費や親の介護費用のすべてをまかなえるわけではない点にも注意が必要です。休業中は賃金の一部しか補填されないため、一時帰国のたびに発生する航空券代や、日本にいる親のために手配する保険外サービスの費用は、別途家計として見込んでおく必要があります。駐在手当がある場合とない場合とで手取りの水準が大きく変わるため、休業を取得する前に、休業中の給与の扱いを会社の給与規程で確認しておくと、後から想定外の負担に気づく事態を避けやすくなります。

給付額には上限もあります。休業開始時賃金日額には支給限度額が設けられており、毎年8月1日に見直されます。賃金水準が高い駐在員ほど、実際の手取り減少率は「賃金の67%」という数字よりも大きくなる可能性がある点は、休業取得前に会社の労務担当や雇用保険の窓口で確認しておくとよいでしょう。有期雇用契約で働いている場合は、休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約が満了することが明らかでないことなど、正社員とは別の要件が課される点にも注意が必要です。

長期化した場合の判断

現状維持と転職の分かれ目

帰任交渉や介護休業だけでは対応しきれないほど親の介護が長期化・重度化してきた場合、現在の駐在を続けながら遠隔で対応を続けるか、日本に戻れる会社への転職を検討するかという、より大きな決断が視野に入ってきます。判断の目安になりやすいのは、親の要介護度が上がり在宅での見守りだけでは支えきれなくなってきているか、日本国内の家族やケアマネジャーとの連絡だけでは状況把握が追いつかなくなっているか、帰任のめどが会社から示されないまま長期間が経過しているか、という3点です。いずれか1つでも当てはまるからといって即座に転職を選ぶ必要はなく、複数の兆候が重なってきた段階で本格的に検討するのが現実的です。

転職検討で確認すべき3つの軸

転職を選択肢に入れる場合、比較すべき軸は大きく3つあります。1つ目は意思決定にかかる期間で、現状維持や帰任交渉は比較的短期間で結論が出る一方、転職活動は数か月単位の時間を要します。2つ目は収入への影響で、駐在中は駐在手当が付いていることが多く、帰国や転職によって収入が下がる可能性を織り込んでおく必要があります。3つ目は親との距離で、転職によって日本国内の勤務地に戻れれば距離の問題は解消されますが、必ずしも希望どおりの勤務地で転職先が見つかるとは限りません。この3軸を具体的な数字や条件で書き出してみると、感覚だけで判断するより比較がしやすくなります。

決断を急がないための時間の作り方

親の介護と自分のキャリアの両方に関わる決断は、短期間で結論を出すほど後悔につながりやすい性質があります。まずは一時帰国と介護休業の分割取得で時間を確保し、日本国内の家族・ケアマネジャー・地域包括支援センターと連携しながら親の状態と必要な支援の全体像を把握することが、帰任と転職のどちらを選ぶにしても土台になります。親のお金の管理や各種手続きの権限整理も、駐在中に判断を迫られやすい論点の1つです。親のお金と権限のガイドもあわせて確認しておくと、いざというときに慌てずに済みます。

きょうだいがいる場合は、駐在中の自分1人で抱え込まず、日本にいるきょうだいや親族と役割を分担しておくことも判断を急がずに済む助けになります。日々の見守りや通院の付き添いは日本側の家族に、費用の一部負担や制度の調べものは駐在中の自分が担う、といった形で役割を分けておけば、帰任や転職という大きな決断をする前に、現状維持のまま支えられる期間を延ばせる可能性があります。誰が何を担っているかを家族内で可視化しておくことは、将来もし話し合いが必要になった場面でも役立ちます。

比較表

項目ごとの違いを、次の表で押さえてください。

選択肢意思決定にかかる期間収入への影響親との距離
現状維持(駐在継続・遠隔対応)短い(すぐに選べる)変化なし(駐在手当を維持)遠い(現地から遠隔での見守り)
帰任交渉会社の人事サイクル次第で数週間〜数か月駐在手当がなくなる場合が多い帰任できれば近くなる
介護休業の分割取得(93日・3回まで)申請から取得まで比較的短い休業中は賃金日額の67%相当休業期間中のみ近くなる
転職(日本国内勤務への転換)数か月単位(活動〜内定〜入社)下がる可能性を織り込む必要あり転職先の勤務地次第

よくある質問

駐在中に親が倒れたと連絡が来ました 会社にはまず何を伝えればいいですか

親の状態と緊急度、自分が今すぐ必要とする対応(数日の一時帰国か、それ以上の休業か)、まだ今後の見通しが立っていないことの3点を分けて伝えると、会社側も対応を検討しやすくなります。

帰任を希望していますが、人事から次の異動まで待ってほしいと言われました どう交渉すればいいですか

いつまでに正式な帰任の可否を判断してもらえるか、期限を人事に確認することが次の一手です。内示が確定辞令になる前の段階であれば、交渉の余地が残っていることが多いとされています。

海外駐在中でも介護休業93日は使えますか

日本の会社と雇用契約を維持したまま働く在籍出向の場合と、現地法人に雇用契約が移る転籍の場合とで扱いが異なることが多く、一律には言えません。自社の駐在員規程や出向辞令で自分の雇用形態を確認し、人事・労務担当に個別に相談する必要があります。

転職して日本に戻ることも考えていますが、判断の基準はありますか

親の要介護度が上がってきているか、国内の家族やケアマネジャーとの連絡だけでは状況把握が追いつかなくなっているか、帰任のめどが長期間示されていないか、という3点のいずれかが当てはまり始めた段階で本格的に検討するのが現実的です。

赴任先の住宅契約や子どもの学校を途中で解約してまで帰任すべきか迷っています 何を優先すればいいですか

契約の解約条件や違約金、子どもの転校時期といった赴任先の事情と、日本の親の要介護度や在宅での見守りの限界を、どちらも数字や具体的な状況で書き出して比較することをおすすめします。感覚だけで急いで決めると後悔につながりやすい性質の決断です。

一時帰国だけで様子を見るか、正式に帰任するか、判断のタイミングはありますか

まずは一時帰国や介護休業の分割取得で数日から数週間の時間を確保し、その間に親の要介護度や必要な支援の全体像を把握してから判断するのが現実的です。分割取得は3回まで使えるため、初回で様子を見て、必要に応じて次の対応を検討することができます。

会社によっては海外駐在員に介護休業を適用しないと聞きました 自分の場合はどう確認すればいいですか

まずは駐在員規程・出向規程・就業規則の該当箇所を確認し、記載が分かりにくい場合は人事・労務担当に直接確認するのが確実です。法律上の適用可否と、自社が任意に認めている制度かどうかは別の問題なので、両方を分けて質問することをおすすめします。

一次情報・公的情報

本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.

この記事について

この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。

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