制度ガイド

親の介護と寄与分|認められる要件と特別寄与料の考え方

親を介護しただけでは、遺産を多くもらえる「寄与分」は原則として認められにくく、扶養義務を超える特別な貢献・無償性・継続性などの要件を満たす必要があります。海外在住の兄弟がいる家庭での記録の残し方も整理しました。

公開日
2026-07-02
最終更新日
2026-07-02
情報確認日
2026-07-02
出典
7件の一次情報・公的情報

親を介護しただけでは、遺産を多くもらえる「寄与分」は原則として認められにくく、扶養義務を超える特別な貢献・無償性・継続性などの要件を満たす必要があります。海外在住の兄弟がいる家庭での記録の残し方も整理しました。

制度の基本

寄与分と特別寄与料は対象者が違う

親の介護を担った家族が、他の相続人より多く遺産を受け取れる可能性がある制度は2つあります。1つは民法904条の2に定められる「寄与分」で、対象は相続人自身(例えば長男・長女など)です。もう1つは2019年(令和元年)7月施行の民法改正で新設された民法1050条の「特別寄与料」で、対象は相続人ではない被相続人の親族(典型例は、亡くなった親を介護していた子の配偶者、いわゆる「長男の嫁」)です。相続人でない親族はもともと遺産分割協議に参加できず、どれだけ介護を担っても金銭的な評価を受ける仕組みがありませんでした。この不均衡を是正するために特別寄与料の制度が作られています。

自分が置かれた状況が相続人としての寄与分の話なのか、相続人でない親族としての特別寄与料の話なのかを、まず区別しておくことが出発点になります。この区別を誤ると、請求できる相手や手続きの窓口も変わってきます。

どちらも家庭裁判所の関与が前提になり得る

寄与分は、まず相続人間の協議で定めるのが原則ですが、協議が調わない、または協議自体ができない場合は、家庭裁判所に「寄与分を定める処分調停」を申し立てることができます。話し合いがまとまらなければ審判手続きに移ります。特別寄与料も同様に、当事者間の協議が調わない場合は、特別寄与者が家庭裁判所に協議に代わる処分を求めることができますが、相続の開始および相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過すると、この請求ができなくなる点に注意が必要です。介護の日々に追われている間に期限が過ぎてしまう例もあるため、時間が経ってからでは対応が難しくなることを知っておく価値があります。

要件の実際

「同居して介護しただけ」では原則不十分

ここが最も誤解されやすい点です。親と同居して身の回りの世話をした、通院に付き添った、というだけでは、寄与分・特別寄与料のいずれも原則として認められにくいとされています。親子や親族には民法上そもそも扶養義務があり、通常の範囲の世話や見守りは、その扶養義務の履行とみなされるためです。認められる可能性が出てくるのは、その扶養義務の範囲を明らかに超える「特別な貢献」があったと評価できる場合に限られます。

実務で重視される4つの要素

上位の解説記事や実務解説で共通して挙げられているのは、おおむね次の4つの要素です。1つ目は特別性で、通常の扶養義務を超える負担であったこと。2つ目は無償性で、介護の対価として金銭を受け取っていなかったこと。3つ目は継続性で、数日から数週間程度の短期間にとどまらず、一般的には数年単位で継続していたこと。4つ目は専従性で、介護に多くの時間や労力を割き、そのために自身の仕事を辞めた・大幅に減らしたなど、生活に大きな影響が出るほどの関わりであったことです。加えて、被相続人が実際に介護を必要とする状態(要介護認定を受けていた、認知症や病気で日常生活に支援が必要だったなど)であったことも判断材料になります。要介護認定の区分や在宅・施設の選び方の基本は介護保険の解説で扱っています。

これらの要素は個別に判定されるのではなく、総合的に評価されます。1つでも満たしていれば自動的に認められるという単純な仕組みではなく、逆に一部が弱くても他の事情で補われる場合もあります。だからこそ「自分は十分に介護をしたのだから当然認められるはずだ」と思い込んで進めると、実際の家庭裁判所の判断とのずれに直面しやすくなります。

認められないケース・争いになりやすいケース

きょうだいの間で「介護は当然のことをしただけ」「みんな同じように大変だった」という受け止め方の違いが生じやすいのも、この制度の難しさです。実際に介護を担った側が特別の寄与を主張しても、他の相続人が扶養義務の範囲内だったと反論し、協議がまとまらず調停・審判に発展する例は珍しくありません。感情的な対立に発展しやすい分野であるため、主張する側は「何を」「いつから」「どの程度」担ったかを、記憶に頼らず記録で示せる状態にしておくことが実務上重要になります。日々の介護費用の立て替えや記録の残し方は親のお金と権限の整理にも通じる考え方です。

算定方法の目安

療養看護型の算定式(一般的な考え方)

介護(療養看護)を理由とする寄与分・特別寄与料の算定方法として、実務解説で広く紹介されているのは「介護報酬相当額(日当額)×介護日数×裁量割合」という考え方です。日当額は介護保険制度の介護報酬を参考に、要介護度に応じて一定の幅(解説記事では1日あたり数千円程度の水準が紹介されることが多い)で見積もられ、裁量割合は、親族には扶養義務があること、介護の専門職ではないことなどを踏まえて、日当額をそのまま採用せず一定の割合を掛け合わせて調整するものです。

この算定式はあくまで実務上広く紹介されている一般的な考え方であり、法律に定められた固定の計算式ではありません。具体的な日当額の水準や裁量割合、実際に認められる金額は、介護の実態、家族関係、相続財産の規模、当事者の協議、家庭裁判所の個別判断によって大きく異なります。「いくらになるか」を事前に正確に見積もることは難しく、目安として参考にする程度にとどめるのが実務的な向き合い方です。

上限がある点にも注意

寄与分は、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません。特別寄与料も同様に、相続財産から遺贈の価額を差し引いた残額が上限とされています。つまり、どれだけ大きな貢献をしていても、相続財産の規模を超える請求は認められません。相続人が複数いる場合、特別寄与料は各相続人がその法定相続分(または指定相続分)に応じて負担する仕組みになっています。

海外・遠距離から

「見えない負担」を記録に変える

海外在住の兄弟がいる家庭では、日本国内で同居・近居しながら実際に介護を担ってきた側と、海外から見守るしかなかった側との間で、負担の実態が見えにくくなりがちです。国内の兄弟が「自分ばかりが介護をしてきた」と感じる一方、海外の兄弟は「自分も送金や一時帰国のたびに費用を負担してきた」と感じている、というすれ違いはよくあります。寄与分・特別寄与料の主張においても、この見えない負担を記録として残しておけるかどうかが、後の話し合いの土台になります。海外在住家族向けの介護コーディネートガイド遠距離介護のガイドでも触れているとおり、日頃からの記録の習慣が、こうした場面で効いてきます。

国内側が残しておきたい記録

実際に介護を担っている国内側の家族は、介護日誌(訪問した日・内容・所要時間)、仕事を休んだ・減らした期間と収入への影響、介護のために支出した費用の領収書、ケアマネジャーや医療機関とのやり取りの記録を、日付つきで残しておくとよいでしょう。介護費用の総額の目安は費用のガイドで扱っていますが、寄与分の主張では「総額がいくらか」以上に「誰が・いつ・どの程度」担ったかという継続性・専従性を示す記録の方が重要になります。

海外側が残しておきたい記録

海外在住の兄弟は、介護のために送った送金の記録(金額・日付・目的が分かる形)、一時帰国して現地対応にあたった際の記録(渡航日数、対応した内容)、国内の兄弟とのメール・メッセージのやり取り(費用分担や役割分担について話し合った内容が残るもの)を保管しておくと、後から「自分も一定の貢献をしていた」ことを示す材料になります。反対に、国内で日々の介護を担ってきた側からすると、こうした記録が残っていることで、海外側の貢献も正当に評価してもらいやすくなり、感情的な行き違いを減らす助けになります。送金や費用分担の実務的な整理は親のお金と権限の整理にまとめています。

記録を残す目的は「争うため」だけではない

記録を残す一番の目的は、将来の争いに備えることだけではありません。誰が何を担ってきたかを家族全員が可視化できていれば、そもそも寄与分を家庭裁判所に持ち込まずに、相続人間の協議だけで納得のいく形に落ち着くケースも多くあります。海外にいる兄弟が「何もしていない」と思われることを避けるためにも、日頃からできる範囲の関わりを記録に残し、国内の兄弟にも共有しておくことが、結果的に円満な話し合いにつながります。

比較表

主な違いを表で見比べられるように並べます。

項目寄与分(民法904条の2)特別寄与料(民法1050条)
対象者相続人自身相続人ではない被相続人の親族(子の配偶者など)
制度創設1980年(昭和55年)改正2019年(令和元年)7月施行
主張する場遺産分割協議、まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判相続人との協議、まとまらなければ家庭裁判所への申立て
請求期限の目安遺産分割の話し合いの中で主張(明確な期限規定は寄与分自体にはなし)相続開始および相続人を知った時から6か月、相続開始から1年
金額の上限相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額
算定の目安(療養看護型)介護報酬相当額×介護日数×裁量割合という考え方が紹介されることが多い同左(算定の考え方は寄与分と共通して紹介されることが多い)

よくある質問

親と同居して介護していれば、それだけで寄与分は認められますか

原則として認められにくいとされています。親族には扶養義務があるため、通常の範囲の同居・世話は扶養義務の履行とみなされ、その範囲を明らかに超える特別な貢献があったと評価される場合に初めて認められる可能性が出てきます。

特別寄与料は誰が請求できますか

相続人ではない被相続人の親族が対象です。典型的には、亡くなった親を介護していた子の配偶者が挙げられます。相続人自身は特別寄与料ではなく寄与分の枠組みで検討することになります。

特別寄与料の請求には期限がありますか

あります。相続の開始および相続人を知った時から6か月、または相続開始の時から1年を経過すると、家庭裁判所への申立てができなくなります。介護に追われて時間が経つと請求自体が難しくなるため、早めに専門家へ相談しておくと安心です。

介護報酬相当額×日数×裁量割合という計算式で、必ずその金額がもらえますか

この計算式は実務解説で広く紹介されている一般的な考え方であり、法律で定められた固定の計算式ではありません。実際に認められる金額は事案ごとに大きく異なり、当事者の協議や家庭裁判所の個別判断によって変わります。

海外在住で日本に頻繁に帰れない兄弟でも、寄与分や特別寄与料を主張できますか

海外在住であること自体が主張の妨げにはなりませんが、実際にどの程度の貢献をしてきたかを記録で示せるかが重要になります。送金の記録や一時帰国時に対応した内容の記録を残しておくと、後の話し合いの材料になります。

寄与分や特別寄与料について、他の相続人との話し合いがまとまらない場合はどうすればよいですか

まずは相続人間・親族間での協議を試みますが、まとまらない場合は家庭裁判所に調停を申し立てることができます。調停でも解決しない場合は審判手続きに移ります。個別の事情に応じた進め方は、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

JCCに相談すれば、寄与分がいくらになるか教えてもらえますか

JCCは法律相談を行う専門機関ではないため、寄与分・特別寄与料の金額の算定や法的な判断はできません。この記事で扱っているのは一般的な制度の考え方の整理です。具体的な金額の見通しや請求の進め方は、相続を専門とする弁護士・司法書士に個別にご相談ください。

一次情報・公的情報

本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-02.

この記事について

この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。

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