家族介護慰労金は、要介護4・5の親を1年近く在宅で介護し、介護保険サービスをほとんど使わなかった住民税非課税世帯に、市区町村が独自に年額10万円前後を支給する制度です。全国一律の制度ではないため、実施していない市や廃止した自治体もあります。
制度の全体像
市区町村事業という前提
「在宅で親を介護している家族に、日本は現金を出してくれるのか」という問いへの正確な答えは、国が全国一律で現金給付する制度は存在せず、市区町村が地域支援事業の一環として独自に実施する任意の事業だけがある、というものです。厚生労働省の地域支援事業実施要綱には、市町村が家族介護支援事業のメニューの1つとして家族介護慰労金の支給を行えることが定められていますが、実施するかどうか、支給額をいくらにするかは各市区町村の裁量に委ねられています。そのため、隣接する市の間でも「実施している市」と「実施していない市」が混在し、同じ神奈川県内でも制度の有無が分かれます。
この構造を理解しておくと、「なぜ友人の市では慰労金が出るのに自分の市では出ないのか」という疑問への答えが見えてきます。答えは単純で、慰労金は権利として全国民に保障された給付ではなく、各自治体が地域の実情に応じて設けるかどうかを決める事業だからです。介護保険サービスそのものの仕組みは介護保険の解説で扱っている全国共通制度ですが、慰労金はその外側にある自治体裁量の上乗せ事業という位置づけになります。全国どこでも同じ条件で受けられる保険給付と、市区町村ごとに姿の異なる慰労金を、まず頭の中で切り分けておくことが理解の助けになります。
この制度の背景には、2000年に介護保険制度が始まる前、在宅介護を家族の無償の努力に頼っていた時代の名残があります。当時、家族介護を続けている世帯へのねぎらいとして現金を給付する自治体が広がりましたが、介護保険制度によってサービスの選択肢が整った現在では、あえてサービスを使わない家族だけに給付する仕組みの意義そのものが自治体ごとに問い直されている段階にあります。実施を続ける自治体、要件を狭める自治体、廃止する自治体が同時に存在するのはこのためです。
典型的な支給要件とショートステイの扱い
実施している自治体の間でも要件の書き方に細部の差はありますが、大阪市・堺市・広島市など複数の政令指定都市の公式案内を確認すると、共通する骨格が見えてきます。まず対象となる要介護者は、1年以上継続して要介護4または5の認定を受けていることが条件です。要介護度の区分そのものの考え方は要介護度の考え方で整理していますが、慰労金では区分の中でも重い方の2区分に限定されるのが一般的です。
次に、その1年間、介護保険サービスをほとんど利用していないことが条件になります。ここで実務上重要なのが短期入所(ショートステイ)の扱いです。大阪市・堺市・広島市はいずれも、年間7日以内のショートステイ利用であれば「サービスを利用していない」とみなす例外規定を設けています。家族が体調を崩したときや冠婚葬祭で数日だけ施設に預けた程度であれば対象から外れない、という趣旨です。最後に、要介護者と介護者の属する世帯が市民税非課税であることが求められます。支給額は年額10万円としている自治体が多く、この3自治体はいずれも年額10万円で統一されていました。
調べ方の型
制度名と担当窓口の探し方
家族介護慰労金は自治体ごとに実施の有無・要件・金額が異なるため、まず自分が調べるべき自治体を確定させることが出発点になります。適用されるのは、要介護者本人の住民票がある市区町村の制度である点に注意してください。家族自身が住む市区町村の制度を調べても意味がありません。親と離れて暮らす家族が自分の住む市で検索して「制度がない」と早合点し、実は親の住む市には制度があった、という取り違えは起こりやすい失敗です。
調べる手順としては、まず「(市区町村名)+家族介護慰労金」で検索し、公式サイトの高齢福祉課・介護保険課のページを確認します。慰労金という名称を使わず「介護者激励金」「在宅介護支援手当」など別名で呼んでいる自治体もあるため、名称でヒットしない場合は「在宅介護」「非課税世帯」「要介護4・5」といったキーワードで探すか、地域包括支援センターやケアマネジャーに直接尋ねるのが確実です。地域の相談窓口の使い方は地域包括支援センターとは、ケアマネジャーの役割でも扱っています。
川崎市・横浜市における実施状況
具体例として、神奈川県の川崎市・横浜市の状況を確認しておきます。両市の公式サイトを確認したところ、家族介護慰労金という名称の事業ページは見当たりませんでした。横浜市は要介護4・5の方や、福祉保健センター長が必要と認めた要介護1〜3の方を対象に紙おむつを支給する介護用品支給事業は実施していますが、在宅で介護する家族への年額現金給付という枠組みの制度は公開情報の範囲では確認できませんでした。川崎市の相談窓口の使い方は川崎市の介護相談窓口ガイドで扱っていますが、慰労金についてはこのガイドの範囲外の制度である点を明記しておきます。「大都市だから手厚いはず」という思い込みは通用せず、実施の有無は自治体ごとに個別確認するしかないというのが、この制度の実務上の教訓です。
つまり川崎市・横浜市に親を呼び寄せて介護している家族が「家族介護慰労金」で検索しても、両市に関する限り、検索の仕方には問題がなく、単純に制度自体が存在しないと考えられます。この場合は慰労金を探し続けるより、後述の高額介護サービス費や負担限度額認定など、サービス利用を前提とした別の負担軽減策に目を向けた方が現実的です。
廃止・見直しが進む背景
近年、この制度を廃止する自治体が相次いでいます。東大和市は平成26年度以降に申請・支給実績がなかったことを理由に要綱を廃止し、美濃加茂市は令和6年度をもって事業を終了、令和7年4月以降は申請を受け付けていません。江別市・井原市など同様の理由で終了した例も確認できます。廃止理由として各自治体が挙げているのは、介護保険サービスの内容が制度発足当初より充実し、家族だけで介護を抱え込む状態を避け適切にサービスを利用してもらう方向へ政策の重心が移った、という説明です。この動きは、後述する「慰労金だけに頼らない方がよい」という論点とも重なります。
申請の段取り
必要書類と申請窓口
実際に申請する段階では、要介護認定結果通知書の写し、住民税の非課税証明書(世帯全員分を求める自治体が多い)、介護サービスの利用実績を確認できる書類、振込先口座の情報などの提出を求められるのが一般的です。窓口は市区町村の高齢福祉課・介護保険課、または区役所の福祉担当課が中心で、堺市のように区役所ごとに受付窓口を分けている自治体もあります。申請様式は自治体の公式サイトからダウンロードできる場合と、窓口や電話での取り寄せが必要な場合があるため、事前に電話で確認してから出向くと二度手間を避けられます。
支給までの流れと審査の視点
申請書を提出すると、自治体側で介護保険の給付実績(過去1年間にどのサービスをどれだけ利用したか)と課税状況を突き合わせて審査します。この審査があるため、申請してすぐに振り込まれる性質のものとは考えにくく、年1回の受付期間を設けて年度末にまとめて支給する自治体もあれば、随時受付で数か月後に支給する自治体もあります。審査の過程で短期入所以外のサービス利用実績が見つかった場合や、非課税要件を満たさないことが判明した場合は不支給になるため、迷う点があれば事前に窓口へ相談してから申請書を提出する方が確実です。
申請の起点となる要介護認定そのものに疑問がある場合、例えば認定調査の結果が実態より軽く出て要介護4・5に届かなかった場合は、慰労金の入り口にすら立てません。要介護度の区分の考え方や認定の仕組みは要介護度の考え方で扱っているとおりで、慰労金の申請を検討する前提として、そもそも自分の親がどの区分に認定されているかを正確に把握しておく必要があります。
受給後の判断
サービス利用と慰労金の負担軽減効果の違い
ここが最もYMYL配慮が必要な論点です。家族介護慰労金は「介護保険サービスを使わない家族」に現金を出す構造になっているため、一見すると「サービスを使わず我慢すれば年10万円もらえる」という誘因に見えます。しかし実際には、要介護4・5という状態は本人の身体的負担も家族の介護負担も大きく、訪問介護やデイサービス、ショートステイといった介護保険サービスを適切に利用した方が、本人の生活の質と家族の心身の負担軽減につながる場合が多いというのが、多くの自治体がこの制度を縮小・廃止してきた背景にある考え方です。慰労金の年額10万円という金額は、1年間サービスを使わずに家族だけで介護を担い続けた負担と比べたとき、必ずしも見合う額とは言えません。
サービスを使うことで受けられる負担軽減の内容は高齢者介護にかかる費用でも整理していますが、慰労金の対象要件を満たすためにあえてサービス利用を控えることは、家族の介護離職や心身の疲弊につながるリスクの方が大きいと考えられます。慰労金は「サービスを使わず頑張ってきた家族への事後的なねぎらい」であって、「サービスを使わないための誘導策」として狙って設計するものではない、という位置づけで捉えることをおすすめします。
慰労金だけに頼らない選択肢
短期入所の日数枠(年7日程度)を使い切ってしまいそうな場合や、要介護度が4・5に届かない場合は、そもそも慰労金の対象にならないケースも多くあります。その場合でも、高額介護サービス費の払い戻しや負担限度額認定など、サービスを利用した上で自己負担を軽減できる制度は別に存在します。ショートステイの費用や30日ルールなど具体的な使い方はショートステイの費用と使い方で扱っています。慰労金の有無だけで「この自治体は介護に冷たい」「手厚い」と判断せず、利用できる制度全体を見渡した上で、本人の状態に合った選択をすることが大切です。
家族の側からすると、まず本人の状態に必要なサービスを組み立て、その結果として慰労金の要件に当てはまるかどうかを後から確認する、という順序で考える方が本来の趣旨に沿っています。「慰労金がもらえるかどうか」を先にサービス利用の調整目的に据えるのは本末転倒です。慰労金は在宅介護を続けてきた家族への事後的なねぎらいという位置づけであり、介護計画そのものを左右する主目的に据えるべき制度ではないという点を、この記事の結論として重ねて確認しておきます。
海外・遠距離から
海外在住家族が確認すべきこと
海外在住の子どもが日本の親の介護を金銭的に支えている場合、家族介護慰労金は「同居する家族」を前提とした要件を課す自治体が多く、海外在住者自身が受給者になれるかどうかは自治体ごとに確認が必要です。多くの自治体では、実際に在宅で介護に当たっている国内の同居家族(配偶者や他の子どもなど)が申請者になり、海外在住の家族は直接の受給対象にならない構造が一般的です。海外から親の介護に関わる家族の役割分担の考え方は海外から日本の親を支える方法、遠距離介護の進め方でも扱っています。
さらに注意したいのは、そもそも海外に住む親族が現地の家族に代わって慰労金相当の支援をしたいと考える場合でも、この制度自体が対象自治体で実施されているとは限らないという、Part 2で確認した前提です。「制度があるはず」という思い込みで動くより、まず居住地の自治体に制度の有無を確認するところから始める方が、結果的に時間の無駄を避けられます。
現地の家族の申請実務を支える
海外在住の家族が直接申請できない場合でも、非課税証明書の取得手続きの案内、必要書類の準備の手伝い、自治体窓口への電話確認の分担など、現地で申請を担う家族を後方から支える役割は担えます。特に、要介護認定の更新時期と慰労金の年1回の受付期間が重なると、書類の準備が国内の家族に集中しがちです。海外にいる家族があらかじめ自治体の受付時期・必要書類を調べて共有しておくだけでも、現地の家族の負担は軽くなります。慰労金という現金給付そのものより、こうした情報収集と役割分担の方が、海外在住家族にとって実際に貢献できる部分だといえます。
比較表
判断に関わる違いだけを抜き出して表にします。
| 自治体 | 慰労金の有無・年額 | 対象要介護度 | 短期入所の許容日数 | 所得要件 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪市 | あり・年額10万円 | 要介護4・5(1年以上継続) | 年7日以内 | 市民税非課税世帯 |
| 堺市 | あり・年額10万円 | 要介護4・5(1年以上継続) | 年7日以内(福祉用具購入・住宅改修は除外対象外) | 市民税非課税世帯 |
| 広島市 | あり・年額10万円 | 要介護4・5相当(1年継続) | 7日以内のショートステイを除く | 市民税非課税世帯 |
| 川崎市 | 実施していない | ― | ― | ― |
| 横浜市 | 実施していない(紙おむつ支給等の現物給付は別途あり) | ― | ― | ― |
よくある質問
要介護5の父を自宅で1年間介護してきましたが、月に数日だけデイサービスを利用しています それでも家族介護慰労金の対象になりますか?
多くの自治体は年間7日程度までの短期入所(ショートステイ)は例外として認めていますが、デイサービスなど通所・訪問系のサービス利用は「介護保険サービスを利用していない」という要件から外れる扱いになる自治体が一般的です。実際の判定は自治体の審査によるため、利用実績の詳細を伝えた上で窓口に相談することをおすすめします。
川崎市に住む母を介護していますが、家族介護慰労金の制度が見当たりません この地域にはそもそも制度がないのでしょうか?
確認した範囲では、川崎市は家族介護慰労金という名称の事業を実施していません。横浜市も同様に、この記事の調査時点では現金給付としての慰労金制度は確認できませんでした。制度の有無は自治体ごとに異なるため、実施していない地域があること自体は珍しくありません。
今年から住民税がかかるようになりそうです 非課税世帯でなくなったら慰労金の対象から外れますか?
家族介護慰労金は多くの自治体で、対象期間中の世帯の市民税非課税を要件としています。年度の途中で課税世帯に変わった場合、対象期間全体を通じて非課税だったかどうかが審査されるため、対象から外れる可能性があります。詳細な判定基準は居住地の窓口で確認してください。
慰労金をもらうために、あえて訪問介護やデイサービスの利用を控えるのは良い判断でしょうか?
本文で扱ったとおり、要介護4・5の状態では介護保険サービスを適切に利用した方が、本人の生活の質と家族の負担軽減につながる場合が多いと考えられます。年額10万円前後の慰労金のためにサービス利用を控えることは、家族の心身の負担や介護離職のリスクを高める可能性があり、おすすめできません。
隣の市に住む友人は慰労金を受け取っていますが、私の住む市では制度自体が廃止されたと聞きました 本当でしょうか?
実際に、介護保険サービスの充実を理由にこの制度を廃止した自治体は複数あります。近隣の市どうしでも実施状況が異なるのは自然なことで、廃止の有無は各自治体の公式サイトや窓口で個別に確認する必要があります。
海外に住んでいて、日本の親の介護費用を送金という形で支援しています この場合も私が家族介護慰労金を受け取れますか?
多くの自治体は実際に在宅で介護に当たっている国内の同居家族を申請者と想定しており、海外在住者本人が直接の受給対象になるかは自治体ごとの確認が必要です。海外にいる家族は、現地で申請を担う家族のために必要書類の準備や窓口への確認を分担する形で支える役割が現実的です。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
