介護保険の住宅改修(上限20万円)を使い切っても、川崎市には要支援・要介護の65歳以上向けに上限100万円の独自助成があります。ただし着工前の事前相談が絶対条件で、工事後の申請は原則助成対象外です。
二つの助成の順序
介護保険20万円枠と川崎市100万円枠は別の制度
親の家に手すりを付けたい、浴室の段差をなくしたいと考えたとき、多くの家族がまず思い浮かべるのは介護保険の住宅改修費です。これは全国共通の制度で、要支援・要介護の認定を受けていれば、手すりの取付け・段差の解消・引き戸への取替え・洋式便器への取替えなどの工事に対して、支給限度基準額20万円の範囲内で7〜9割が保険給付され、残りが自己負担になります。詳しい対象工事や事前申請の流れは介護保険の住宅改修ガイドにまとめています。
川崎市にはこれとは別に、市独自の「高齢者住宅改造費助成事業」があります。対象は市内在住で要支援1・2または要介護1〜5の認定を受けた65歳以上の高齢者で、浴室・手洗所・居室・玄関・食堂・廊下・階段などの工事に対し、助成対象基準限度額100万円まで助成されます。ここで見落とされやすいのは、川崎市の制度は「介護保険制度の住宅改修以外の工事」を対象としている点です。つまり両者は同じ工事を二重に助成する仕組みではなく、介護保険の対象工事に含まれない、より大がかりな改造(浴室全体の作り替え、廊下の拡幅など)を市の助成で補う位置づけに近いというのが実務上の理解です。詳細な線引きは個々の工事内容によるため、区役所の担当者との事前相談で確認する必要があります。
どちらを先に検討するべきか
結論としては、まず介護保険の住宅改修費(20万円枠)で対応できる工事かどうかをケアマネジャーと確認し、そのうえで工事の規模が大きく20万円枠を超える、または介護保険の対象工事に含まれない改造が必要な場合に、川崎市の高齢者住宅改造費助成事業を検討するという順序が実務的です。介護保険の枠を使い切ってから市の助成を申請する家族もいれば、最初から浴室全体の改修など規模の大きい工事を計画し、両方の制度を並行して区役所に相談する家族もあります。いずれの場合も、次章で説明する「着工前の事前相談」を先に済ませることが、どちらの制度を選ぶ場合にも共通する絶対条件です。
具体的な工事のイメージで考える
例えば浴室の場合、手すりの取付けや床材の滑り止め加工、開き戸から引き戸への取替えといった部分的な工事は介護保険の住宅改修費の対象工事に含まれます。一方で、浴槽そのものの入れ替え、洗い場全体の作り替え、給排水管の引き直しを伴うような大がかりな改修は、介護保険の対象工事の範囲を超えることが多く、川崎市の高齢者住宅改造費助成事業で扱う工事に近づいていきます。廊下や玄関についても同様で、手すりの追加程度は介護保険、通路の拡幅や勝手口の新設のような構造に踏み込む工事は市の助成、という大まかな役割分担があります。ただし個々の工事がどちらの制度に該当するかは、リフォーム会社の判断だけで決めず、必ず区役所の事前相談で確認する必要があります。
専門職による必要性の判断
ケアマネジャーが工事の必要性を整理する
高齢者住宅改造費助成事業は「住宅の改造が必要と認められる方」が対象であり、本人や家族が「あった方が便利だから」という理由だけで申請できる制度ではありません。担当のケアマネジャーは、要介護認定の結果や日々の生活状況をふまえ、どの箇所にどのような改造が必要かを整理し、区役所への相談時に必要性を説明する役割を担います。介護保険の住宅改修費を申請する際にも同様にケアマネジャーの関与が前提になっており、ケアマネジャーの役割で扱っているとおり、住環境の整備はケアプランの一部として位置づけられます。
理学療法士の意見が判断材料になる場合がある
浴室の改修や手すりの位置など、身体機能に直結する工事では、リハビリテーションを担当する理学療法士や作業療法士の意見が重視されることがあります。歩行の状態、立ち座りの動作、麻痺の有無などを踏まえて、どこにどのような改修が適切かを専門的な視点で助言してもらうことで、区役所への説明もより具体的になります。訪問リハビリやデイケアで理学療法士に関わってもらっている場合は、住宅改造を検討し始めた段階で早めに相談しておくと、後の手続きがスムーズになります。
主治医意見書との関係
要介護認定の更新時期が近い場合や、認定区分の変更を伴う場合は、主治医意見書の内容も間接的に関わってきます。認定区分が変わると対象工事の判断や優先順位が変わることがあるため、住宅改造を計画するタイミングと認定更新のタイミングが近いときは、ケアマネジャーに相談してどちらを先に進めるべきか確認しておくとよいでしょう。
区役所の訪問調査に同席する
事前相談のあと、区役所の担当者や委託を受けた専門職が自宅を訪問し、実際の生活動線や工事予定箇所を確認する調査が行われることがあります。この訪問調査には、ケアマネジャーが同席して本人の生活状況を補足説明する役割を担うことが多く、家族だけでは伝えきれない日常の困りごとを専門職の視点で言語化してもらえる場面になります。海外在住の家族がいる場合でも、この訪問調査の日程だけは本人と国内の関係者で対応することになるため、あらかじめケアマネジャーと日程を調整しておくと安心です。
見積もりと申請書類の準備
着工前に見積書を用意してもらう
高齢者住宅改造費助成事業でも介護保険の住宅改修費でも、施工業者にはまず「工事を始める前」の見積書を作成してもらう必要があります。見積書には工事箇所・工事内容・金額の内訳が明記されている必要があり、区役所はこの見積書をもとに助成対象になるかどうか、限度額内に収まるかどうかを審査します。施工業者を選ぶ際は、川崎市の助成制度の申請に慣れている業者かどうかを事前に確認しておくと、書類の不備によるやり直しを減らせます。
施工業者が用意する書類と役割分担
申請にあたっては、見積書のほかに工事箇所の写真(改修前)、平面図や施工図面の提出を求められることが一般的です。これらは施工業者が用意する書類で、家族が個人で作成するものではありません。工事完了後には、完了報告書とあわせて改修後の写真の提出も必要になります。家族側の役割は、施工業者とケアマネジャー・区役所の間で情報がずれないよう、やり取りの記録を残しておくことです。
契約は交付決定の連絡を受けてから
もっとも注意すべき点は、区役所からの交付決定の連絡を受ける前に施工業者と正式な工事請負契約を結び、着工してしまわないことです。良心的な施工業者であれば、助成制度を利用する前提であることを伝えれば、交付決定が出るまで契約や着工を待ってくれます。逆に、見積もりだけを先に取り、契約や着工は区役所の回答を待ってから、という進め方を徹底することが、後述する「着工後は助成対象外」という落とし穴を避ける最も確実な方法です。
工事完了後の検査にも対応する
工事が完了すると、施工業者は完了報告書と改修後の写真をまとめ、区役所に提出します。場合によっては、区役所の担当者が改修後の現地を確認する完了検査が行われることもあります。この段階で見積もりや事前の申請内容と実際の工事内容に食い違いがあると、助成額の見直しや支払いの遅れにつながることがあるため、工事内容を変更する必要が生じた場合は、施工業者から区役所へ事前に相談してもらうことが望ましい進め方です。
事前相談から交付決定までの審査
まず区役所高齢・障害課へ事前相談する
高齢者住宅改造費助成事業の窓口は、各区役所の高齢・障害課です。制度全体の問い合わせ先は川崎市健康福祉局高齢者在宅サービス課ですが、実際の申請・相談は住んでいる区の区役所窓口で行います。川崎市の案内では「必ず事前に御相談ください」と明記されており、これは形式的な案内ではなく、工事着手後に申請しても助成を受けられないという実務上の制約を伴う注意です。事前相談では、要介護認定の状況、希望する工事内容、おおよその見積もり金額などを伝え、対象になりそうかどうかの一次的な判断を受けます。
所得区分によって利用者負担が変わる
助成対象基準限度額100万円のうち、実際にいくら助成されるかは世帯の所得状況によって段階的に決まります。生活保護世帯や市民税非課税世帯は利用者負担が低く抑えられ、一定以上の市民税課税所得がある世帯は利用者負担の割合が高くなり、所得区分によっては全額自己負担になる場合もあります。具体的な所得区分の金額や負担率は年度・世帯構成によって変わりうるため、事前相談の際に区役所で最新の基準を確認する必要があります。世帯の中に市民税課税者と非課税者が混在している場合、どの所得を基準に区分が決まるかが分かりにくいという相談も多く、この点もあわせて事前相談で確認しておくと、あとから想定外の自己負担額になって困る事態を避けやすくなります。
交付決定から工事完了報告までの流れ
事前相談のあと、正式な申請書と見積書などの必要書類を提出し、区役所での審査を経て交付決定の通知が届きます。この通知を受け取ってから施工業者との契約・着工に進みます。工事完了後は、完了報告書と改修後の状況が分かる書類(写真等)を提出し、内容が確認されたのちに助成金が交付される流れです。介護保険の住宅改修費についても、償還払い(いったん全額支払い後に払い戻し)と受領委任払い(自己負担分のみを施工業者に支払う)の二通りがあり、どちらを選ぶかによって手元資金の準備が変わってきます。申請書類の提出先は住宅改修費の場合も各区役所高齢・障害課の介護給付担当です。
帰国せずに進める段取り
誰が区役所へ相談に行けるか整理する
海外在住の家族が親の住宅改造を進めたい場合、まず「誰が区役所へ事前相談に行けるか」を整理することから始まります。国内に同居・近居の家族がいれば、その家族が本人とともに、または本人の代理として区役所の窓口に相談に行くのが最も現実的です。国内に頼れる家族がいない場合は、担当のケアマネジャーに事前相談への同行や代理での相談を依頼できることがあります。海外から日本の親を支える方法でも触れているとおり、日本国内の窓口対応は、本人・ケアマネジャー・国内家族のうち動ける人が分担する形が現実的です。
見積もりの依頼と共有はオンラインでも進められる
施工業者からの見積もり取得や工事内容の説明は、写真や図面をメール・オンライン通話で共有してもらうことで、海外在住のまま内容を確認できる部分が多くあります。ただし、区役所への正式な事前相談や申請書類への署名など、対面や書面での手続きが必要な場面は残るため、全てをオンラインだけで完結させるのは難しいと考えておいた方がよいでしょう。一時帰国のタイミングと、事前相談・契約・着工のタイミングを合わせられると、手続きがスムーズに進みます。一時帰国の計画の立て方は遠距離介護の進め方でも扱っています。
着工前申請という条件を海外家族こそ意識する
海外在住家族が特に注意すべきなのは、国内の家族や施工業者だけで話が進み、事前相談を経ないまま工事が始まってしまうケースです。悪意はなくても、「早く直してあげたい」という気持ちから、見積もりが出た時点で契約・着工まで進めてしまい、後から助成の対象外だったと分かる事例は起こり得ます。費用面で協力する海外家族は、契約前に区役所の交付決定が出ているかを国内の家族に確認する役割を担うと、こうした行き違いを防ぎやすくなります。費用の分担や記録の残し方は日本の高齢者介護にかかる費用にまとめている考え方とも重なります。
費用を家族で分担するときの記録
浴室や玄関の改修工事は数十万円から百万円規模になることもあり、自己負担分を海外在住の家族と国内の家族で分担するケースは珍しくありません。誰がいくら送金したか、助成金がいつ・いくら交付されたかを記録に残しておくと、あとから「立て替えた分がどうなったか分からない」という行き違いを防げます。特に助成金の交付が工事完了後になる制度のため、施工業者への支払いは家族が先に立て替え、助成金は後から補填される資金の流れになる点を、海外家族もあらかじめ理解しておくと安心です。
比較表
混同しやすい点を、表の形で切り分けます。
| 項目 | 介護保険の住宅改修(20万円枠) | 川崎市 高齢者住宅改造費助成事業(100万円枠) |
|---|---|---|
| 制度の主体 | 介護保険制度(全国共通) | 川崎市独自の助成制度 |
| 対象者 | 要支援・要介護の認定者 | 市内在住・要支援1、2または要介護1〜5・65歳以上 |
| 対象工事 | 手すり設置・段差解消・引き戸への取替え等 | 浴室・手洗所・居室・玄関・食堂・廊下・階段等(介護保険の住宅改修以外の工事) |
| 限度額 | 支給限度基準額20万円 | 助成対象基準限度額100万円 |
| 利用者負担 | 所得に応じ1〜3割 | 所得区分に応じて0〜全額まで段階的 |
| 事前手続き | 原則着工前に区役所へ事前申請 | 必ず着工前に区役所へ事前相談・事前申請 |
| 併用 | 対象工事が異なるため個別に確認が必要 | 同上(事前相談で線引きを確認) |
よくある質問
介護保険の20万円枠を使い切ったあとに、川崎市の助成を申請できますか?
介護保険の住宅改修費とは対象工事の考え方が異なる別の制度のため、20万円枠を使い切っていなくても検討自体は可能です。ただし対象になるかどうかは工事内容によるため、区役所高齢・障害課への事前相談で確認する必要があります。
浴室の改修工事を、業者と契約する前に区役所へ連絡する必要がありますか?
必要です。川崎市の案内では工事着手後に申請しても助成を受けられないと明記されています。見積もりを取ったあとは、契約や着工を進める前に必ず事前相談を済ませてください。
海外在住のため、本人の代わりに家族が区役所へ事前相談に行くことはできますか?
国内に同居・近居の家族がいれば、その家族が本人とともに、または代理として相談に行く形が現実的です。頼れる家族がいない場合は、担当のケアマネジャーに同行や代理相談を依頼できることがあります。
要支援1の認定でも高齢者住宅改造費助成事業の対象になりますか?
対象になり得ます。制度の対象者には要支援1、2または要介護1〜5と認定された65歳以上の高齢者が含まれています。実際の対象可否は工事内容とあわせて区役所で確認してください。
ケアマネジャーに理学療法士の意見も踏まえて必要性を整理してもらうことはできますか?
できます。歩行や立ち座りの状態を踏まえた理学療法士の助言は、区役所への説明を具体的にするうえで役立ちます。訪問リハビリやデイケアで関わっている専門職がいれば、早い段階で相談しておくとよいでしょう。
賃貸住宅に住む親でも、この助成を利用できますか?
持ち家か賃貸かによって必要な書類(所有者の承諾書など)が変わることがあります。賃貸の場合は家主の同意が必要になるケースが一般的なため、事前相談の際に住宅の所有形態も併せて伝えてください。
事前相談から交付決定までは、どのくらいの期間を見ておけばよいですか?
具体的な審査期間は申請内容や区役所の状況によって異なるため、この記事では確定的な日数を示せません。工事を急ぐ事情がある場合は、その旨を事前相談の時点で伝えておくとよいでしょう。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
- 川崎市「高齢者住宅改造費助成事業」(川崎市公式サイト, curl verified 200)
- 川崎市「川崎市高齢者住宅改造費助成事業実施要綱」(川崎市公式サイト, curl verified 200)
- 川崎市「住宅改修費の請求(自宅のバリアフリー改修をする場合)」(川崎市公式サイト, curl verified 200)
- 川崎市「身体機能が低下したために、住宅を改造する場合に利用できる助成制度について知りたい」(川崎市公式サイトFAQ, curl verified 200)
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」(厚生労働省, curl verified 200)
- 川崎市「川崎市住まい助成制度等ご案内」(川崎市公式サイト, curl verified 200)
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
