65歳以上で生活保護を受けている親は介護保険の被保険者のままで、保険料は生活扶助に、1割の自己負担分は介護扶助でまかなわれます。40〜64歳で医療保険に未加入の場合は「みなし2号」として費用の全額が介護扶助になる違いを整理しました。
制度の基本
生活保護8種類の扶助の中の介護扶助
生活保護には、生活費にあたる生活扶助のほか、住宅扶助・教育扶助・医療扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助、そして介護扶助という8種類の扶助があります。このうち介護扶助は2000年の介護保険制度創設に合わせて生活保護法に加えられたもので、介護保険サービスを利用する被保護者(生活保護を受けている人)の自己負担分、または介護保険の対象外となる被保護者の介護サービス費用そのものを給付する仕組みです。生活保護というと生活費だけをイメージしがちですが、介護保険を使う場面では、この介護扶助が実務上の中心になります。
介護扶助で給付される範囲は、居宅介護(訪問介護・通所介護等)、福祉用具の貸与・購入、住宅改修、施設介護(特別養護老人ホーム等への入所)、介護予防サービスなど、原則として介護保険の給付対象と同じ範囲です。介護扶助は現物給付(サービスそのものの提供)が原則で、利用者に現金が渡る仕組みにはなっていません。福祉事務所は介護保険の保険者(市区町村)と連携し、要介護認定の結果やケアプランの内容を共有しながら給付を決定します。生活保護の担当と介護保険の担当が同じ市区町村内の別部署であることも多く、親の状況が変わった際にどちらの窓口に連絡すればよいか迷う家族もいますが、まずは日頃から関わりのあるケースワーカーかケアマネジャーに相談すれば、必要な部署へ話をつないでもらえます。
65歳以上は第1号被保険者のまま
65歳以上の生活保護受給者は、生活保護を受けているかどうかに関わらず、居住する市区町村の介護保険の第1号被保険者です。つまり、要介護認定を受け、ケアプランに沿ってサービスを利用するという基本的な流れは、生活保護を受けていない高齢者と変わりません。違うのは費用の出どころで、月々の介護保険料は生活扶助費にあらかじめ加算される形で支払われ、サービス利用時の自己負担分(原則1割、所得が高い一部の被保護者では2〜3割になり得ますが、実務上は住民税非課税かつ低所得のため1割になるケースが大半です)は介護扶助として現物給付されます。結果として、親が窓口で現金を支払う場面はほとんどなくなります。
40〜64歳は医療保険の加入状況で扱いが変わる
40〜64歳の生活保護受給者は、少し事情が異なります。介護保険の第2号被保険者になれるかどうかは、医療保険(国民健康保険や会社の健康保険など)に加入しているかどうかで決まるためです。生活保護を受けると国民健康保険からは脱退する扱いになるため、会社の健康保険など別の医療保険に加入していない限り、40〜64歳の被保護者は介護保険の被保険者資格を持ちません。この場合、特定疾病(末期がん・初老期認知症・脳血管疾患など介護保険法施行令で定める16疾病)に該当して介護が必要になると、介護保険の被保険者ではないまま介護保険に準じたサービスを受ける「みなし2号」という扱いになり、費用は10割すべてが介護扶助から給付されます。逆に会社の健康保険に継続加入していれば通常どおり第2号被保険者となり、65歳以上と同じく自己負担分だけを介護扶助が埋める形になります。
申請前の準備
資産を使い切ってからという原則
生活保護は、生活保護法第4条が定める「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること」を前提とした制度です。預貯金や不動産、生命保険の解約返戻金などの資産がある場合、原則としてそれらを生活費に充ててから申請する扱いになります。持ち家については、住み続けている自宅を無条件に手放す必要はありませんが、資産価値が著しく大きい場合は例外的に扱われることがあります。自動車の保有も原則として認められにくく、通勤や通院に不可欠といった限られた事情がある場合に例外が検討されます。目安となる資産の額は世帯の状況で変わるため、まず福祉事務所や地域包括支援センターに相談し、個別に確認するのが現実的です。
親の資産が尽きそうな段階で慌てて動くよりも、預貯金の残高や年金額、施設利用料の見込みを早めに整理しておくと、申請のタイミングを判断しやすくなります。介護費用の全体像を先に把握しておくと、資産がどのくらいの期間もつかの見通しも立てやすくなります。
扶養照会は義務ではない
生活保護の申請時、福祉事務所は原則として3親等以内の親族に対し「援助できるかどうか」を確認する扶養照会を行います。ただし2021年の運用見直し以降、扶養照会に応じる法律上の強制力はないことが明確になりました。扶養義務の履行が期待できないと判断される親族には、照会自体を行わない扱いになっています。長期間音信不通である、借金を抱えている、虐待やDVの経緯があるなどの事情がある場合は、申請時にその旨を伝えれば照会を控えてもらえる可能性があります。扶養照会はあくまで「援助できる範囲で援助してほしい」という打診であり、親族が援助を断っても、それを理由に生活保護が受けられなくなることはありません。
申請をためらう必要はない
生活保護の利用を「恥」だと感じて申請をためらう家族は少なくありませんが、生活保護は憲法25条の生存権に基づく国民の権利であり、条件を満たせば誰でも申請できます。介護が必要な親を支える場面では、介護扶助によって自己負担がほぼなくなることが、在宅・施設どちらの選択肢を維持するうえでも大きな助けになります。ためらいから申請が遅れ、資産を使い切ってから慌てて動くよりも、早めに福祉事務所へ相談するほうが結果的に親の生活を安定させやすくなります。
申請と決定後の流れ
申請窓口と必要な手続き
生活保護の申請窓口は、親が居住する市区町村の福祉事務所です。申請後、担当のケースワーカーが資産・収入・扶養の状況を調査し、原則14日以内(特別な事情がある場合は30日以内)に保護の要否が決定されます。すでに要介護認定を受けている場合はその区分がそのまま引き継がれますが、まだ認定を受けていない場合は、生活保護の決定と並行して要介護認定の申請も進める必要があります。
決定後にケアマネジャーへつなぐ
生活保護が決定し要介護認定も済むと、ケアマネジャーがケアプランを作成し、通常の介護保険利用と同じ流れでサービスが始まります。この段階での大きな違いは、サービス利用票の自己負担欄が介護扶助でカバーされる前提になっている点です。ケアマネジャーは被保護者の担当実績があることも多いため、生活保護受給中であることを伝えたうえで相談すると、費用面の不安を含めて具体的な調整をしてもらいやすくなります。ケアプランに福祉用具のレンタルや住宅改修を組み込む場合も、費用は同じく介護扶助の対象になりますが、事前に福祉事務所側の確認が必要になることがあるため、ケアマネジャーを通じて手続きの順番を確認しておくと二度手間を避けられます。
福祉事務所との日常的なやり取り
介護扶助の給付を続けるには、収入や資産の状況が変わった際に福祉事務所へ届け出ることが欠かせません。年金額の改定、他の家族からの仕送りの発生、入院による医療費の変化などは収入認定に影響するため、担当ケースワーカーへの定期的な報告が欠かせません。届出を怠ると、後日まとめて返還を求められる場合もあるため、変化があった時点で早めに伝える姿勢が実務上重要になります。
施設探しの実際
特別養護老人ホームは入所できる
特別養護老人ホーム(特養)は、生活保護を受けていることを理由に入所を断られる施設ではありません。特養の費用は生活扶助・介護扶助・住宅にあたる居住費部分などの組み合わせでまかなわれ、住民税非課税世帯向けの負担限度額認定と合わせて考えると、自己負担はごくわずかで済むケースが大半です。要介護度の基準を満たし、順番が回ってくれば、生活保護を理由に選考で不利になることは制度上ありません。
住宅型有料老人ホームには壁がある
一方、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は事情が異なります。生活保護の住宅費は「住宅扶助」の上限額の範囲でしか支給されず、上限は地域ごとに異なりますが単身者で月5万円前後が目安とされています。住宅型有料老人ホームは家賃設定が施設ごとに自由なため、住宅扶助の上限を超える家賃の施設では、超過分を自己負担する必要が生じ、実質的に入居が難しくなります。加えて、こうした施設は介護報酬による収益を前提に運営されていることが多く、要介護度が低く介護報酬が発生しにくい被保護者の受け入れには消極的な施設もあるのが実情です。
生活保護を受け入れる施設の探し方
生活保護受給者を受け入れている施設を探す際は、まず担当のケースワーカーや地域包括支援センターに相談するのが最も確実な経路です。福祉事務所は地域内の受け入れ実績がある施設の情報を持っていることが多く、施設側も福祉事務所からの紹介であれば費用面の調整に慣れています。民間の老人ホーム紹介サービスを使う場合も、生活保護受給中であることを最初に伝え、住宅扶助の上限内で家賃が収まる施設に絞り込んで探すと、無駄な見学を減らせます。
海外家族の視点
扶養照会は海外にいても届く可能性がある
親が生活保護を申請すると、海外に住む子にも扶養照会の文書が届く可能性があります。扶養照会の対象は国内の親族に限られておらず、福祉事務所が住所を把握できる限り、海外在住の親族にも郵送で照会が行われることがあります。前述のとおり扶養照会は義務ではないため、長期間連絡を取っていない、援助できるだけの余裕がないといった事情があれば、その旨を書面で伝えれば足ります。海外にいることを理由に照会そのものが免除されるわけではありませんが、援助を断ったからといって親の生活保護が取り消されることもありません。
仕送りをしていると収入として扱われる
親と別居している子が定期的に仕送りをしている場合、生活保護の審査ではその仕送り額が親の収入として認定され、支給される保護費から差し引かれます。これは海外からの送金でも国内からの送金でも扱いは同じです。善意で送っていた仕送りが結果的に親の保護費を減らすことになる場合もあるため、生活保護の申請を検討する段階で、仕送りを続けるかどうかを含めてケースワーカーに相談しておくと、後から金額の食い違いに悩まずに済みます。逆に、緊急の一時金や医療費などスポットでの支援は収入認定の扱いが異なる場合があるため、個別の状況は必ず福祉事務所に確認してください。
例外もあります。厚生労働省の実施要領は、扶養義務者からの援助が「本来期待される扶養の程度を超え、かつ自立更生のためにあてるべきことを明示してなされた」場合に限り、収入として認定しない「自立更生のための恵与金」として扱う運用を認めています。対象は生業費・医療費・住宅の補修費など用途が具体的に決まっている支援に限られ、単に生活費として渡した仕送りはこの例外に当たりません。用途を明示した一時的な援助を考えている場合は、収入認定される仕送りとは扱いが変わる可能性があるため、事前にケースワーカーへ用途を伝えて確認しておくと行き違いを防げます。
記録を残し早めに相談する
海外にいると福祉事務所とのやり取りに時間差が生じやすいため、扶養照会の文書が届いたら早めに返信し、事情がある場合はその内容を書面で残しておくことが望ましいといえます。国内にいるきょうだいがいる場合は、誰が福祉事務所とのやり取りの窓口になるかをあらかじめ決めておくと、連絡の行き違いを防げます。海外在住家族向けの介護コーディネートガイドや遠距離介護のガイドで扱っている記録の残し方の考え方は、この場面でもそのまま役立ちます。
比較表
違いを一目で見比べられるよう、表にしています。
| 区分 | 介護保険の被保険者資格 | 保険料の扱い | 自己負担分の扱い |
|---|---|---|---|
| 65歳以上(第1号被保険者) | 生活保護を受けていても被保険者のまま | 生活扶助に加算されて納付 | 1割(原則)を介護扶助が給付 |
| 40〜64歳・医療保険に加入中 | 第2号被保険者のまま | 医療保険料に含めて納付(医療扶助等で調整) | 1割を介護扶助が給付 |
| 40〜64歳・医療保険未加入(みなし2号) | 被保険者にはならない | 保険料の概念自体がない | 特定疾病に該当時、費用の10割を介護扶助が給付 |
よくある質問
親が生活保護を受けると、介護保険料はどうなりますか?
65歳以上の場合、介護保険料は生活保護の生活扶助にあらかじめ組み込まれて支払われるため、親自身が別途窓口で納める必要はありません。40〜64歳で会社の健康保険に加入していない場合は、そもそも介護保険の被保険者にならないため保険料自体が発生しません。
介護サービスを使うと、生活保護を受けている親の自己負担はいくらになりますか?
65歳以上で第1号被保険者のままの場合、原則1割の自己負担分は介護扶助から給付されるため、実質的な自己負担はほぼゼロになります。40〜64歳で医療保険に未加入の「みなし2号」の場合は、費用の10割が介護扶助でまかなわれます。
特別養護老人ホームには生活保護を受けていても入所できますか?
入所できます。生活保護を理由に入所を断られることはなく、生活扶助・介護扶助・居住費部分の組み合わせで費用がまかなわれるため、要介護度の基準を満たし順番が来れば入所可能です。
住宅型有料老人ホームには生活保護でも入居できますか?
制度上は可能ですが、住宅扶助の上限額(単身者で月5万円前後が目安)を超える家賃の施設では超過分が自己負担になるため、実際に入居できる施設は限られます。福祉事務所や地域包括支援センターに、住宅扶助の範囲で家賃が収まる施設を相談するとよいでしょう。
海外に住んでいる自分にも扶養照会の書類が届くのでしょうか?
届く可能性があります。福祉事務所が住所を把握していれば、海外在住の親族にも郵送で照会が行われることがあります。援助できない事情があれば、その旨を書面で伝えれば足り、断ったことを理由に親の生活保護が取り消されることはありません。
親に仕送りをしているのですが、生活保護の申請に影響しますか?
影響します。定期的な仕送りは親の収入として認定され、支給される生活保護費から差し引かれる扱いになります。海外からの送金でも同様に扱われるため、申請前に仕送りを続けるかどうかをケースワーカーに相談しておくと安心です。
生活保護の申請前に、親の預貯金は全部使い切らないといけませんか?
生活保護法は資産の活用を前提とするため、最低限度の生活を維持するために必要な範囲を超える預貯金は、先に生活費として使ってから申請する扱いが原則です。具体的な線引きは世帯の状況で変わるため、福祉事務所や地域包括支援センターへの早めの相談をおすすめします。
生活保護を申請すると、必ず親族に連絡が行ってしまうのですか?
扶養照会は義務ではなく、2021年の運用見直し以降、扶養義務の履行が期待できないと判断される親族には照会自体を行わない取り扱いが明確になっています。長期間の音信不通や援助できない事情があれば、申請時にその旨を伝えることで照会を控えてもらえる場合があります。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
- 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第4条・第15条の2(e-Gov法令検索, curl verified 200)
- 生活保護法による介護扶助とは(神奈川県, curl verified 200)
- 生活保護受給者に対する扶養義務履行が期待できない場合の取扱いについて(厚生労働省社会・援護局保護課, curl verified 200)
- 生活保護制度に基づく介護扶助について(一宮市, curl verified 200)
- 介護扶助とは(福岡県, curl verified 200)
- 生活保護の扶養照会の運用が改善されました(つくろい東京ファンド, curl verified 200)
- 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号・厚生労働省, curl verified 200)
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
