制度ガイド

海外在住の非居住者が親の介護費で確定申告するときの注意点

海外に住み日本の税法上「非居住者」になると、親の扶養控除・医療費控除の扱いが変わります。38万円送金書類、30歳以上70歳未満の追加要件、納税管理人の選任という3点を国税庁の一次情報で整理しました。

公開日
2026-07-11
最終更新日
2026-07-11
情報確認日
2026-07-11
出典
9件の一次情報・公的情報

海外に住み日本の税法上「非居住者」になると、親の扶養控除・医療費控除の扱いが変わります。38万円送金書類、30歳以上70歳未満の追加要件、納税管理人の選任という3点を国税庁の一次情報で整理しました。

課税範囲の誤解を解く

非居住者の課税範囲は国内源泉所得だけ

日本の所得税では、国内に住所がなく、かつ引き続き1年以上「居所」もない個人は「非居住者」として扱われます。居住者は原則として国内・国外を問わずすべての所得が課税対象になりますが、非居住者の課税対象は「国内源泉所得」に限られます。恒久的施設に帰属する所得、国内にある資産の運用・保有・譲渡による所得、国内の不動産の貸付け収入などが典型例です。海外の給与だけで生活し、日本国内に賃貸物件や金融資産を持たない非居住者であれば、日本での確定申告義務自体が生じないことも珍しくありません。逆に、海外赴任中でも給与の一部が日本の会社から支払われている、日本国内に賃貸中の実家がある、といった場合は国内源泉所得が発生し、申告や年末調整の対象になり得ます。まず自分がどちらに当たるかを整理することが、扶養控除や医療費控除を検討する前提になります。

「海外に住むと扶養控除が使えなくなる」という誤解

「海外に住んでいる時点で親の扶養控除は諦めるしかない」という思い込みは正確ではありません。扶養控除そのものは、扶養している側(納税者)が日本の居住者であるか非居住者であるかにかかわらず、扶養されている親が非居住者である場合の追加書類が必要になる、という制度です。つまり論点は「海外に住む子が使えるか」ではなく「海外に住む親族(この記事では日本にいる親も含みます)を扶養控除の対象にするために何を提出するか」です。会社員で海外赴任中の場合は、年末調整のタイミングで勤務先に必要書類を提出する形になり、確定申告が必要な非居住者は自分で書類をそろえて申告書に添付します。制度の基本と要介護度別の給付額は介護保険の解説でも整理していますが、税務上の扶養控除は介護保険の要介護認定とは別の制度である点も押さえておくと混同を避けられます。

所得税の非居住者と住民税の扱いは別

もう1つ混同しやすいのが、所得税の「非居住者」区分と、住民税の課税の仕組みは別の制度だという点です。住民税は、その年の1月1日時点で国内に住所があるかどうかで課税の有無が決まります。年の途中で海外へ転出した場合、その年分の住民税は転出前の1月1日時点の住所地で課税され、翌年以降に海外へ住所を移していれば住民税はかからなくなるのが一般的な扱いです。所得税の居住者・非居住者の判定は年の途中で切り替わることがある一方、住民税は1月1日という1時点で判定されるため、「今年はもう海外にいるから住民税もかからないはずだ」と早合点すると、前年分の住民税の納付通知が届いて戸惑うことがあります。扶養控除の書類をそろえる前に、自分がどの税目についてどの時点の居住形態で判定されるのかを整理しておくと、後のやり取りが減ります。

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扶養控除に必要な3種類の書類

国外に住む親族について扶養控除等の適用を受けるには、原則として「親族関係書類」と「送金関係書類」または「38万円送金書類」を確定申告書に添付するか、提出の際に提示する必要があります。親族関係書類とは、戸籍の附票の写しやパスポートの写しなど、その親族が納税者の親族であることを証明する公的書類です。送金関係書類は、金融機関の為替取引書類やクレジットカード発行会社が発行する利用明細など、納税者からその親族へ生活費・療養費等の送金が行われたことを明らかにする書類を指します。38万円送金書類は、その年にその親族へ支払った金額の合計が38万円以上であることを示す書類で、同じ親族への送金が年3回以上になる場合は、最初と最後の送金書類と明細書の提出で他の書類提示を省略できる扱いもあります。ただし、この最初と最後の送金分だけを合計しても38万円に届かない場合は、簡略化した明細書と最初・最後の送金書類に加えて、年間の合計が38万円以上になっていることが分かる送金関係書類もあわせて提出・提示する必要があります。省略した残りの送金書類は、確定申告書に添付・提示しなくても、申告した本人が手元に保管しておく必要がある点も見落としやすいところです。海外送金が3回以上に分かれる家庭では、簡略化できる範囲とできない範囲を混同しないよう、年末に一度、送金額の合計を整理しておくと安心です。

30歳以上70歳未満は追加要件が必要(2023年改正)

令和5年分(2023年分)以後の所得税では、非居住者である扶養親族のうち、その年12月31日時点で30歳以上70歳未満の人は、次のいずれかに該当しないと扶養控除の対象になりません。1つ目は留学により日本国内に住所も居所もなくなった人、2つ目は障害者に該当する人、3つ目は納税者からその年に生活費または教育費として38万円以上の支払いを受けている人です。16歳以上30歳未満、または70歳以上の非居住者である親族には、この年齢による追加要件は適用されません。海外在住の子が日本にいる高齢の親を扶養控除の対象にする場合、親は70歳以上であることが多いためこの追加要件には該当しませんが、扶養する側が「介護のために仕送りをしている30代・40代のきょうだいを扶養親族にできるか」を検討する場面では、この年齢区分を確認しておく必要があります。

医療費控除を取れるのは生計を一にする側

医療費控除は、納税者自身または納税者と生計を一にする配偶者・親族のために支払った医療費が、一定額を超える場合に受けられる控除です。「生計を一にする」は必ずしも同居を要件とせず、勤務や療養の都合で別居していても、常に生活費や療養費等の送金が行われている場合には生計を一にするものとして扱われます。ここで注意したいのは、医療費控除はあくまで納税者自身の所得税を計算する上での控除であり、控除する元になる課税所得がなければ意味を持たないという点です。海外在住で日本国内源泉所得がまったくない非居住者は、親の介護費を実際に負担していても、控除できる日本の所得税自体が存在しないため、医療費控除の恩恵を受けられません。日本の会社から給与の一部が支払われている、日本国内に賃貸収入があるなど、何らかの形で日本での確定申告や年末調整が発生する立場であれば、その範囲で医療費控除を検討できます。

非居住者が確定申告するための納税管理人

非居住者が日本で確定申告等をする必要がある場合は、納税地を所轄する税務署長に対して「所得税・消費税の納税管理人の選任届出書」を提出し、納税管理人を定めておく必要があります。納税管理人は、非居住者に代わって確定申告書を提出し、税金の納付や還付金の受け取り、税務署からの書類の受け取りを行う役割を担います。納税管理人に特別な資格は求められておらず、日本国内に住所がある個人でも法人(税理士法人など)でも構いません。届出はe-Taxソフトでの作成・提出のほか、書面を郵送する方法も選べます。届出をしないまま出国すると、税務署からの通知や還付金の受け取り先が定まらず、申告や還付の手続きが滞る原因になります。

扶養控除の判定基準日はその年12月31日

扶養控除に該当するかどうかは、その年の12月31日時点の現況で判定されます。親の年齢、送金額の合計、留学や障害の有無なども、年末時点でどうなっているかを基準に考えます。年の途中で親が来日して同居を始めた場合や、逆に子が海外赴任から帰任して居住者に戻った場合も、その年の12月31日時点の状況で扶養控除の適用を判断することになります。年の前半だけ非居住者としての要件を満たしていても、年末に状況が変わっていれば、その年の扶養控除の扱いも変わり得るという点は見落としやすいところです。年の途中で居住形態が変わりそうな場合は、送金額や必要書類を年末近くになってから慌てて確認するのではなく、変化が見えた時点で一度書類の要件を洗い直しておくと安心です。

実務として準備する

送金記録を早い段階から残す習慣

38万円送金書類や送金関係書類は、扶養控除の適用を受ける年に行った送金のすべてが対象になり得るため、確定申告の時期になってからまとめて用意しようとすると、古い送金の記録が見つからず苦労することがあります。銀行送金であれば取引明細、送金アプリや国際送金サービスであれば送金完了画面や利用明細を、送金のたびに保存しておくと安心です。海外から日本の親の生活費・介護費を継続的に送金している場合の実務的な進め方は、海外からの介護費の手配ガイドにもまとめています。送金の頻度や手段によって記録の残し方が変わるため、年に一度まとめて確認するのではなく、送金のたびに記録を保存する習慣にしておくと、確定申告の準備が大きく楽になります。仕送りを複数の口座やサービスに分けて送っている家庭では、年末になって「どの送金がいつ・いくらだったか」を1件ずつ洗い出す作業が想像以上に時間を取られます。簡単な家計簿やスプレッドシートに送金日・金額・利用したサービスだけでも書き残しておくと、確定申告の時期にまとめて記録を探し回る手間を大きく減らせます。

納税管理人を誰に頼むかの判断

納税管理人は日本国内に住む親族や、税理士・税理士法人に依頼するのが一般的です。国内に同居していない場合でも、日本に住む配偶者やきょうだいがいれば、その人を納税管理人に選任できます。頼める親族が身近にいない場合は、税理士に依頼する方法もありますが、依頼する前に自分にどの程度の申告義務があるか(国内源泉所得の有無)を整理しておくと、相談がスムーズに進みます。親のお金の管理や各種手続きの代理を家族間でどう分担するかは、親のお金と権限の整理でも扱っている考え方が参考になります。

専門家に確認すべきタイミング

扶養控除・医療費控除ともに、実際に適用できるかどうかは個々の所得状況・送金実績・親族関係によって判断が分かれます。この記事で扱っているのは制度の一般的な枠組みであり、具体的な適用可否や税額の計算は、税理士または納税地を所轄する税務署に個別に確認することを前提にしてください。特に、海外赴任と帰国のタイミングが年をまたぐ場合や、扶養する家族が複数国にまたがる場合は、居住者・非居住者の区分そのものが年の途中で切り替わることがあり、判断が複雑になりやすい領域です。一時帰国のたびに税務署へ相談するのが難しい場合の家族の動き方は、遠距離介護のガイド海外在住家族向けの介護コーディネートガイドにもまとめています。また、介護のための一時帰国にかかる交通費そのものの節約法は介護の交通費を抑える割引ガイド、費用全体の見取り図は介護費用ガイドを参考にしてください。

申告書の提出方法の確認

確定申告書の提出そのものは、納税管理人を通じて書面を郵送する方法と、e-Taxソフトを使って電子的に提出する方法があります。e-Taxを使う場合は、事前に利用者識別番号を取得しておく必要があり、海外にいる本人が直接手続きするのか、納税管理人が代理で行うのかを事前に決めておくと、申告時期になって慌てずに済みます。マイナンバーが分かる書類の提示・提出を求められる場面もあるため、マイナンバー通知カードや個人番号が記載された住民票の写しなど、必要になりそうな書類は帰国のタイミングでまとめて確認しておくとよいでしょう。海外からのマイナンバー関連の手続きは制度が変わりやすい分野でもあるため、最新の要件は税務署または納税管理人に依頼した専門家に確認してください。

比較表

両者の違いは、次の表のとおりです。

項目居住者(納税者)が扶養する場合非居住者(納税者)が扶養・申告する場合
課税される所得の範囲国内・国外を問わずすべての所得日本国内源泉所得のみ
扶養控除の必要書類親族関係書類は不要な場合が多い(同居等で確認可能)親族関係書類+送金関係書類または38万円送金書類が必須
30〜70歳未満の親族への追加要件適用なし(所得・年齢の基本要件のみ)留学・障害者・年38万円以上送金のいずれかが必須(2023年改正)
医療費控除の前提自分の所得税から控除(課税所得があれば可能)日本国内源泉所得がなければ控除する対象自体が存在しない
確定申告の窓口自分の住所地の税務署納税管理人を経由して納税地の所轄税務署

よくある質問

海外に住んでいる時点で、親の扶養控除は諦めるしかないですか

そうではありません。扶養控除は扶養している納税者の居住形態にかかわらず利用できる制度で、扶養される親が非居住者である場合に追加の書類が必要になる、という仕組みです。この記事では逆に、海外在住の子が日本にいる親を扶養する典型的なケースを整理しています。

年38万円以上を送金してさえいれば、他の書類はいらないですか

38万円送金書類だけでは足りません。原則として親族関係書類も合わせて提出または提示する必要があります。また30歳以上70歳未満の親族については、38万円以上の送金のほかに留学や障害者に該当する事情がなければ、そもそも扶養控除の対象になりません。

医療費控除は海外在住の子でも申告できますか

医療費控除は生計を一にする親族のために支払った医療費が対象になりますが、控除する元になる日本国内の課税所得がなければ意味を持ちません。日本国内源泉所得がまったくない非居住者は、親の介護費を実際に負担していても、この控除の恩恵を受けられない可能性があります。

納税管理人は税理士でなければ選任できませんか

特別な資格は求められておらず、日本国内に住所がある親族や知人でも選任できます。頼める人が身近にいない場合の選択肢として税理士・税理士法人がありますが、必須というわけではありません。

非居住者は日本の所得すべてに課税されるのですか

いいえ。非居住者に課税されるのは日本国内で生じた所得(国内源泉所得)に限られます。海外での給与収入だけで生活し、日本国内に資産や収入源がなければ、確定申告の義務自体が生じないこともあります。

一時帰国のタイミングで税務署に相談することはできますか

可能です。ただし居住者・非居住者の区分や必要書類は個々の状況で変わるため、一時帰国の短い滞在中にすべてを解決しようとせず、事前に電話や書面で税務署・税理士に相談内容を整理しておくと、限られた滞在日数を有効に使えます。

一次情報・公的情報

本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.

この記事について

この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。

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