同居家族がいても生活援助は一律禁止ではありません。老計第10号が定める原則と、就労・疾病などやむを得ない事情による例外の判断基準を整理します。
状況の整理
「同居家族がいると使えない」は正確な説明ではない
訪問介護の生活援助について、「同居している家族がいるので保険では頼めません」と一律に説明されることがあります。しかし、これは制度の正確な説明ではありません。生活援助の算定要件を定める平成12年3月17日老計第10号「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」は、生活援助を「利用者が単身であるか、または家族等が障害・疾病等のため、本人や家族が家事を行うことが困難な場合」に行われるものと位置づけています。つまり原則は「同居家族がいる場合は生活援助を算定しない」という考え方ですが、これは家族の有無だけで機械的に判定するものではなく、家族が実際に家事を行えるかどうかという実態を見る規定です。
厚生労働省は「同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助」という事務連絡でも、同居家族がいるという理由だけで一律に支給を認めない運用をしている自治体があることを問題視し、利用者の状況に応じて個別に判断するよう求めています。介護保険の基本を解説したガイドでも触れているとおり、介護保険の給付は制度上の原則と、個別事情を踏まえた運用の両方で成り立っており、生活援助の同居家族要件はその代表例です。
この事務連絡が出された背景には、現場で「同居家族がいる」という一言だけで機械的に申請を断る運用が全国で見られたという事情があります。厚生労働省はこれを是正するため、あくまで生活援助が必要かどうかは利用者本人の心身の状態と、同居家族が実際に家事を担える状況にあるかどうかという実態で判断すべきだという立場を明確にしています。自治体ごとに判断フローチャートやチェックリストを独自に作成しているのも、この個別判断を現場で運用しやすくするためです。
判断するのは市区町村でなくケアマネジャーの調整が起点
生活援助を使えるかどうかを最終的に決めるのは市区町村ですが、実務上はケアマネジャーがまず利用者・家族の状況をアセスメントし、サービス担当者会議で「なぜ同居家族が家事を行えないのか」「なぜその内容・時間・回数のサービスが必要なのか」を検討したうえで、ケアプランと訪問介護計画書に理由を書き込むところから始まります。「同居家族がいるから無理」と最初の一言で片づけられた場合でも、それはケアマネジャーの初期判断であって最終結論ではないことがあります。事情を具体的に伝え、必要であれば地域の地域包括支援センターにも相談し、再度アセスメントしてもらう余地が残っています。
自治体によっては、生活援助を位置づけたケアプランのうち一定の回数を超えるものを市に届け出て検証する仕組みを設けているところもあります。これは同居家族要件そのものとは別の制度で、生活援助の回数制限と届出制度で詳しく扱っていますが、生活援助の利用が「なぜ必要か」を書面で説明できる状態にしておく重要性は共通しています。担当のケアマネジャーが事情を丁寧に記録し、サービス担当者会議の議事録やアセスメントシートに残しておくことが、あとから市に確認された場合の備えにもなります。
選択肢の比較
やむを得ない事情に当てはまるかを確認する
複数の自治体(調布市・船橋市・名古屋市など)が公開しているケアマネジャー向けの取扱い基準を整理すると、「やむを得ない事情」として挙げられる典型的な類型はおおむね次のとおりです。同居家族が障害や疾病のために家事を行うことが困難な場合、同居家族自身も高齢で家事が難しい場合、同居家族が未成年で本人への支援が大きな負担になる場合、同居家族が就労や通学などで日中長時間不在の場合、そして同居家族との関係に深刻な問題があり援助が期待できない場合です。これらのどれか一つに明確に当てはまり、かつサービスが提供されなければ利用者の日常生活や健康状態に支障が出ると判断できる場合に、生活援助が例外的に認められます。
一つの事情だけで自動的に決まるわけではなく、利用者本人の心身の状態、家族の就労・健康状況、地域に他の支援手段があるかなど、複数の要素を合わせて総合的に判断されます。担当のケアマネジャーに「うちのケースはどの類型に近いか」を具体的に聞いてみることが、最初に取れる現実的な行動です。
たとえば同居する配偶者自身が要支援・要介護の認定を受けている場合や、持病の通院・療養で家事に手が回らない場合は「疾病等」の類型に、同居する子が中学生・高校生で本人への支援が学業や生活に大きな負担になっている場合は「未成年」の類型に当てはまりやすくなります。また、同居家族との間に介護放棄や関係悪化といった深刻な問題があり、援助を頼める状態にない場合も対象になり得ますが、この類型は特にデリケートな事情を伴うため、地域包括支援センターや医療ソーシャルワーカーなど第三者を交えて確認する流れになることが多くなります。
身体介護に付随する家事は別枠で扱われる
生活援助の同居家族要件を考えるうえでもう一つ押さえておきたいのが、身体介護とセットで行われる家事です。老計第10号は、入浴介助の準備や後片づけ、食事介助の前後の配膳・下膳など、身体介護に付随して一体的に行われる行為は「身体介護」として扱われ、生活援助の同居家族要件とは別枠になるという整理を示しています。つまり同居家族がいて生活援助単体は難しくても、身体介護が必要な状態であれば、その一連の流れの中で家事に近い行為が提供される場合があります。訪問介護の料金とサービス内容では、身体介護と生活援助の単価や区分の違いを扱っていますので、あわせて確認すると全体像がつかみやすくなります。
ただし、この身体介護に付随する家事は、あくまで身体介護の一連の流れとして必要な範囲に限られます。身体介護とは無関係に台所全体を掃除する、来客用の食事を作るといった内容までは含まれません。同居家族がいる家庭で「身体介護のついでに家事全般を頼めるはず」と誤解して依頼すると、訪問介護計画書の範囲を超えるとしてケアマネジャーから調整を求められることがあります。
日中独居の扱い
「就労で日中は一人」が最頻出の相談パターン
同居家族が現役で働いている場合、家に人はいても日中は事実上一人という「日中独居」の状態になっている家庭は少なくありません。この場合、同居家族が就労などで長時間にわたり日中不在であり、その間に必要な家事や生活上の支援を行える人がいないと判断できれば、生活援助を利用できる余地があります。ただし、家族が帰宅する夜間や休日に対応すれば足りる内容の家事については、原則として対象になりません。判断のポイントは、日中不在の時間帯に行われなければ利用者の生活に具体的な支障が生じるかどうかです。
就労状況を具体的に伝えることが判断を左右する
ケアマネジャーは「同居家族が何時から何時まで働いているか」「休日はいつか」「帰宅後にどの程度の家事ができる状態か」といった点を細かく確認したうえで判断します。家族の側から「平日は朝8時に出て夜9時まで帰らない」「休日出勤が月に何日かある」といった具体的な就労状況を先に伝えておくと、アセスメントがスムーズに進みます。逆に、家族が在宅勤務や時短勤務で日中の一定時間は家にいる場合は、その時間帯にできる範囲の家事は対象外と判断されやすくなります。判断は個別の生活実態に基づくため、「フルタイムで働いているから自動的に認められる」というものでもない点には注意が必要です。
もう一つ実務でよく出るのが、同居家族が交代勤務やシフト制で、平日・休日の区別が一定しないケースです。この場合は「典型的な1週間の生活パターン」を家族と一緒に書き出し、家事が実際に手薄になる曜日・時間帯を具体的に示すことが判断の助けになります。単に「共働きだから」という説明だけでは類型に当てはまるかどうかが伝わりにくく、ケアマネジャーが再確認を求めることになりがちなので、最初から具体的な生活パターンを共有しておくと調整が早く進みます。
保険外の選択肢
例外要件に当てはまらない場合の現実的な選択肢
サービス担当者会議で検討した結果、同居家族が健常でフルタイムの就労もしておらず、明確なやむを得ない事情が見当たらないと判断されると、介護保険の生活援助は使えません。この場合の現実的な選択肢は、保険外(自費)のサービスで家事の部分を補うことです。代表的なのは、介護事業者が提供する自費ヘルパーと、一般の家事代行サービスの2種類で、どちらも要介護認定の有無やケアプランへの位置づけを問わず利用でき、回数や時間帯の制約も保険サービスより自由に決められます。
保険内と保険外、それぞれの向き不向き
保険内の生活援助は自己負担が原則1〜3割に抑えられる一方、要件を満たさなければ利用できず、内容や回数もケアプランの範囲に限られます。保険外の自費ヘルパーや家事代行は全額自己負担になりますが、同居家族の有無にかかわらず契約でき、家具の移動や特定の来客対応など保険の生活援助では対象外になりやすい作業も相談しやすいという違いがあります。料金は事業者やサービス内容によって幅があるため、具体的な時間単価の目安は自費ヘルパーの料金ガイドと家事代行サービスのガイドで個別に比較することをおすすめします。保険内の生活援助と保険外サービスを組み合わせて、平日はケアプランの範囲で、来客時や大掃除の時期だけ自費で補うという使い方をしている家庭もあります。
保険外サービスを選ぶ際は、同居家族の有無に関する説明を求められない代わりに、事業者側の会員登録や契約手続き、キャンセル規定などを個別に確認する手間が発生します。介護保険サービスのように全国一律の基準があるわけではないため、依頼したい作業内容(掃除の範囲、買い物の同行の可否、鍵の預かりなど)を事前に事業者へ具体的に伝え、見積もりを取ってから契約するとトラブルを避けやすくなります。また、身体介護に近い介助(入浴・排せつ等)を自費サービスに求める場合は、対応できる事業者が限られるため、事前確認が特に重要です。
海外・遠距離から
海外在住の子は「同居家族」に数えられるか
海外在住で日本の親と離れて暮らしている場合、そもそも「同居家族」には該当しないため、老計第10号やケアマネジメントの実務でいう同居家族要件の対象にはなりません。親が一人暮らし、または国内に同居家族がいない状態であれば、生活援助は「単身」の要件を満たしやすく、海外にいる子の存在自体が生活援助の利用を妨げることはありません。むしろ遠距離介護の進め方や海外から日本の親を支える方法で扱っているとおり、海外にいる家族はケアマネジャーとの連絡役、費用の負担者としての役割を担うことになり、日常の家事支援は保険サービスと国内の見守り体制に委ねる形が現実的です。
帰国して同居した瞬間に変わること
一方で、将来的に日本に帰国し親と同居する予定がある場合は注意が必要です。同居を始めた時点で「単身」の要件は失われ、以後は同居家族要件の対象になります。帰国した子がフルタイムで働き始めれば「就労による日中不在」の例外に当てはまる可能性がありますが、無職や在宅勤務で日中も自宅にいる状態であれば、それまで使えていた生活援助が使えなくなるケースがあります。高齢の親と日本へ移住する前に確認しておきたい実務の一つとして、帰国・同居のタイミングでケアマネジャーに事前に相談し、ケアプランの見直しが必要になることを想定しておくと、同居開始後に慌てずに済みます。同居の形態(同一世帯か、同じ敷地内の別棟かなど)によっても判断が変わることがあるため、具体的な住まい方が決まった段階で早めに確認しておくとよいでしょう。
逆に、これまで日本国内で親と同居しながら家事を担っていた家族が、転勤や自身の事情で海外に転出する場合は、親が「単身」になることで生活援助の要件を満たしやすくなる場合があります。同居・別居の切り替わりはケアプランの見直しが必要になる典型的なタイミングであるため、海外への転出・帰国の予定が具体化した段階で、早めにケアマネジャーへ相談し、切り替え後のケアプランを一緒に組み直しておくと、支援が途切れる期間を減らせます。
比較表
判断に関わる違いだけを抜き出して表にします。
| 同居家族の状況 | 生活援助の可否 | 必要な確認・記録 | 保険外の代替手段 |
|---|---|---|---|
| 同居家族なし(単身) | 原則利用可 | 特になし(単身であることの確認のみ) | 必要に応じ自費ヘルパー・家事代行を併用 |
| 同居家族が就労・疾病・高齢等で家事困難 | 例外要件を満たせば利用可 | 具体的な事情をケアマネジャーに伝え、ケアプラン・訪問介護計画書に理由を明記 | 保険サービスで不足する分を自費で補完 |
| 同居家族が健常でフルタイムの就労もなし | 原則利用不可 | サービス担当者会議での検討結果を確認 | 自費ヘルパー・家事代行サービスで全面的に代替 |
よくある質問
同居する息子や娘がいると、生活援助は絶対に保険で使えなくなりますか?
いいえ、一律に使えなくなるわけではありません。原則は同居家族がいる場合に算定しないという考え方ですが、家族が就労・疾病・高齢などの事情で実際に家事を行えないと認められれば、例外として利用できます。まずは担当のケアマネジャーに具体的な事情を伝えることが最初の一歩です。
同居家族が日中は仕事でいない場合、生活援助は使えますか?
使える可能性があります。同居家族が就労で長時間にわたり日中不在であり、その間に必要な家事を行えないと判断できれば、例外要件の一つに当てはまります。ただし夜間や休日に対応すれば足りる内容は対象外になりやすく、就労状況の具体的な聞き取りをもとに判断されます。
生活援助が使えない場合、保険外の家事代行や自費ヘルパーの料金はどのくらいですか?
事業者やサービス内容によって幅があり、この記事内で一律の金額は示していません。自費ヘルパーと家事代行サービスそれぞれの料金の目安は、関連ガイドで具体的な時間単価を比較していますので、そちらをあわせてご確認ください。
同居家族がいても生活援助を認めてもらうには、家族側で何を準備すればいいですか?
家族の就労状況(勤務時間・休日)や疾病・体調の状況を、ケアマネジャーに具体的に説明できるようにしておくとよいでしょう。サービス担当者会議で「なぜ同居家族が家事を行えないのか」を検討する材料になり、ケアプランへの理由の明記にもつながります。
海外に住んでいる子どもは「同居家族」として扱われますか?
扱われません。同居家族要件は実際に同じ住まいで生活している家族を対象とするため、海外在住であれば同居家族には数えられず、親が一人暮らしであれば「単身」の要件を満たしやすくなります。
親と同居するために帰国したら、それまで使えていた生活援助は使えなくなりますか?
同居を始めた時点で単身の要件は失われるため、使えなくなる可能性があります。帰国した家族がフルタイムで就労すれば例外要件に当てはまることもありますが、在宅勤務や無職で日中も自宅にいる場合は、ケアプランの見直しが必要になることがあります。
身体介護と生活援助が同居家族の要件でどう違うのか分かりません
身体介護は入浴・排せつなど利用者の身体に直接触れる介助とその一連の準備・片づけを指し、同居家族要件の対象外です。生活援助は掃除・調理・買い物などの家事そのものを指し、こちらが同居家族要件の対象になります。
一次情報・公的情報
本文は一次情報・公的情報を優先して確認しています。制度、費用、窓口の扱いは自治体や時期で変わるため、最終判断の前にリンク先の公式情報も確認してください。 最終確認日: 2026-07-11.
- 老計第10号「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(平成12年3月17日、厚生省老人保健福祉局老人福祉計画課長通知、枚方市公開資料、curl verified 200)
- 「同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助」事務連絡(厚生労働省、curl verified 200)
- 川崎市:ケアマネジメント業務に関するページ(川崎市、curl verified 200)
- 同居家族がいる場合の生活援助の考え方(調布市、curl verified 200)
- 同居家族がいる場合の生活援助について(名古屋市健康福祉局高齢福祉部介護保険課、curl verified 200)
- 同居家族のいる場合の生活援助サービスの取扱いについて(船橋市、curl verified 200)
この記事について
この記事は一般的な情報の整理であり、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。制度の運用、費用、サービスの有無は自治体や状況によって異なるため、具体的な判断は関係機関や資格を持つ専門職にご確認ください。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
