親が亡くなり、実家の名義を変える段になって、海外に住む子が最初につまずくのは書類です。日本の手続きは、印鑑証明書と住民票があることを前提に組まれています。住民票を抜いて海外に住んでいると、そのどちらも出せません。代わりに使う書類は、提出先ごとに少しずつ違います。法務局は在外公館の署名証明を印鑑証明の代わりとして認めていますが、銀行は各社の決まりで動きますし、期限の数え方も同じではありません。さらに、2024年4月1日から相続登記が義務になり、それより前に始まった相続でも、2027年3月31日までに登記をする必要があります。このページは、提出先ごとに何を求められるかと、法令で決まっている期限を一覧にしたものです。証明書を在外公館で取る手順は在外公館でできる証明書手続き、委任状の書き方と代理でできることの範囲は海外在住家族の委任状ガイドで詳しく説明しています。ここに書くのは一般的な仕組みで、個別の相続でどの書類が要るかは、登記なら司法書士、相続税なら税理士に確認してください。
代わりに使う書類
4つの置き換え
海外在住の人が日本の手続きで出せない書類と、その代わりに使われる書類は、おおむね次の4組です。どれを使えるかは提出先が決めるので、先に提出先の案内を確認してから取りに行くと、取り直しが減ります。
法務省は、不動産登記で印鑑証明書が必要な場面について、本人が外国に住んでいて印鑑証明書を取れない場合は、日本の領事が作成した署名証明を代わりに添付できるとしています。住まいが在外公館から遠いなど、領事の署名証明を取るのが難しいときは、外国の公証人が作成した署名証明でも登記の申請ができます。
戸籍は海外に住んでいても本籍地の市区町村に郵送で請求できますが、手数料の払い方などで手間がかかります。取り寄せ方は戸籍証明書を海外から取り寄せる方法にまとめています。署名証明・在留証明・戸籍の附票などの費用と郵送の可否を書類ごとに比べたいときは、海外在住で使う日本の書類一覧を見てください。
| 日本在住なら | 海外在住の場合の代わり | 発行する所 |
|---|---|---|
| 印鑑証明書(実印の証明) | 署名証明(サイン証明) | 住んでいる国の日本大使館・総領事館 |
| 印鑑証明書(公館が遠い場合) | その国の公証人が作成した署名証明 | 現地の公証人 |
| 住民票の写し(住所の証明) | 在留証明 | 住んでいる国の日本大使館・総領事館 |
| 実印を押した委任状 | 署名証明を付けた委任状、または公証人が認証した委任状 | 在外公館、現地または日本の公証役場 |
外国籍の相続人
在外公館の在留証明は、日本国籍の人に交付される証明です。相続人のなかに外国籍の配偶者や子がいる場合、その人は在外公館の証明を使えないことがあります。法務省の案内では、相続人申告登記で住所を証明する書類として、日本国籍の人は在外公館が発行する在留証明書など、外国籍の人は住んでいる国の政府などが作成した住民票の写しに相当する書面などを挙げています。
国によっては住民票にあたる制度がなく、本人が公証人の前で住所を宣誓した書面を使う場合もあります。どの書面で足りるか、翻訳が必要かは事案ごとに変わるので、外国籍の相続人がいるときは早めに司法書士に相談してください。
提出先ごとの一覧
提出先別の書類
同じ署名証明でも、法務局と銀行では求められ方が違います。主な提出先ごとに、よくある場面と書類、期限の決まり方を並べました。銀行・証券会社や自治体の欄は、各社・各自治体が独自に決めている部分が大きいため、具体的な期限は書いていません。
| 提出先 | よくある場面 | 求められやすい書類 | 期限の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 法務局 | 親名義の土地・建物の相続登記 | 遺産分割協議書と、各相続人の印鑑証明書(海外在住は署名証明)。新しく名義人になる人の住所の証明(海外在住は在留証明など) | 協議書に付ける証明の期限は、法務局か司法書士に確認する |
| 法務局 | 相続した不動産を売却する登記 | 申請書や委任状に付ける印鑑証明書(海外在住は署名証明) | 不動産登記令は、申請書と委任状に付ける印鑑証明書を「作成後3か月以内」と定めている |
| 法務局 | 相続人申告登記 | 申出書、相続人と分かる戸籍の証明書、住所の証明(国内に住所のない人は省略できない) | 申出は相続を知った日から3年以内 |
| 銀行・証券会社 | 預金の解約・払戻し、株式の名義変更 | 各社の相続手続依頼書、署名証明、在留証明、戸籍の証明書など | 各社が決める。手続の案内か窓口で確認する |
| 日本年金機構 | 海外に住む受給者の現況届 | 在留証明 | 誕生月を含めて過去6か月以内に証明を受けたもの |
| 市区町村 | 戸籍・住民票の除票の請求、介護保険の資格喪失など | 自治体の様式の委任状、本人確認書類の写し | 自治体の案内による |
期限の数え方
署名証明や在留証明を取ったあと、いつまで使えるかは、証明書そのものではなく提出先の決まりで変わります。法令で期限が書かれているものと、提出先の運用で決まるものを分けて考えると、取り直しが減ります。
期限のある書類は、取る順番が大事です。相続人が何人もいて、全員の署名証明がそろうまでに時間がかかると、先に取った人の分が提出先の期限を過ぎることがあります。戸籍の収集と遺産分割協議書の内容を先に固め、署名証明は最後にまとめて取る段取りにすると、取り直しを避けやすくなります。
在外公館の在留証明は、2025年5月27日から、ロシアとイランの公館を除くすべての在外公館で電子の証明書(e-証明書)でも取れるようになったと、日本年金機構が案内しています。ただし、提出先によっては紙の証明書を求めます。e-証明書で足りるかは、取る前に提出先に確認してください。
| 書類と使い道 | 期限 | 決めているもの |
|---|---|---|
| 登記の申請書・委任状に付ける印鑑証明書 | 作成後3か月以内 | 不動産登記令16条3項・18条3項 |
| 年金の現況届に付ける在留証明 | 誕生月を含めて過去6か月以内 | 日本年金機構の案内 |
| 銀行・証券会社に出す証明書 | 各社が決める | 各社の相続手続の案内 |
相続人が海外にいるとき
手続きの順番
親の不動産や預金を相続する場合、海外に住む相続人がいると、郵送の往復が何度も入ります。一般的には次の順で進みます。
署名証明には、協議書に公館で署名してそれを証明してもらう形と、署名を証明した書面を別に作ってもらう形があります。法務局や銀行がどちらを想定しているかで使い勝手が変わるため、公館へ行く前に提出先か司法書士に形を確かめておきます。
- 相続人を確定する(親の出生から死亡までの戸籍の証明書を集める。法務局で法定相続情報一覧図の写しを作っておくと、相続人申告登記などで戸籍の束の代わりに使える)
- 親名義の不動産を洗い出す(2026年2月2日から、法務局で所有不動産記録証明書を請求でき、郵送の請求もできる)
- 預金・証券の口座を確認し、各社の相続手続の案内を取り寄せる
- 遺産分割協議書の案を作り、相続人全員で内容を確認する
- 海外在住の相続人が、在外公館で協議書に署名して署名証明を受け、在留証明も取る
- 原本を日本の取りまとめ役に送り、法務局・銀行に提出する
登記の期限
相続で不動産を取得した相続人は、相続の開始と取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。この義務化は2024年4月1日に始まりました。それより前に始まった相続でも、登記をしていなければ対象になり、2027年3月31日までに登記をする必要があります(相続で取得したことを知ったのが2024年4月以降なら、その日から3年以内)。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります。
期限までに遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記という簡単な方法で義務を果たせます。相続人の1人が単独で申し出ることができ、オンラインでも出せて、押印や電子署名は要りません。ただし、国内に住所のない人は住所の証明を省略できないので、海外在住なら在留証明などを用意します。相続人申告登記で果たせるのは基本の義務だけで、その後に遺産分割がまとまったら、成立の日から3年以内に分割の内容に沿った登記をする義務が別にあります。
親が亡くなってから何年もたち、実家の名義が祖父母のままになっているような場合は、相続人が増えて書類集めが長引きます。2027年3月31日から逆算すると、海外在住の相続人がいる家族は、2026年のうちに戸籍の収集と相続人の確定に手をつけておくと間に合わせやすくなります。
一時帰国中の公証役場
署名の認証
一時帰国の予定があれば、日本の公証役場で書類の署名を認証してもらう方法もあります。日本公証人連合会によると、私署証書の認証は、署名や記名押印が本人のものであることを公証人が証明するものです。本人が公証人の前で署名する方法、すでにした署名を本人が公証人の前で自分のものと認める方法、代理人が本人の署名だと認める方法があります。
注意したいのは、公証人の認証は文書が本人によって作られたことを証明するもので、内容が正しいことまでは証明しない点です。また、提出先がこの認証を印鑑証明書の代わりとして受け付けるかは、提出先ごとに違います。帰国前に法務局・銀行・司法書士に「公証役場の認証で足りるか」を聞き、足りると言われた書類だけを持ち込むと、帰国中の限られた日数を無駄にしません。本人確認に何を持参するかも、予約のときに公証役場に確認してください。
| 認証の種類 | 手数料 |
|---|---|
| 委任状の認証 | 4,000円 |
| 契約書などの私署証書の認証 | 1万1,000円(内容による減額あり) |
| 宣誓認証 | 1万1,000円 |
| 外国語の文書の場合 | 上記に6,000円を加算 |
相談先と支援
誰に何を聞くか
書類の集め方は、相談先を分けると早く片づきます。
遺産分割の内容や、誰がどの財産を取るべきかといった判断は、法律の個別相談にあたります。このページはその判断をするものではありません。相続人のなかに連絡のつかない人や未成年者、判断能力が衰えた人がいる場合は、手続きそのものが変わるので、司法書士か弁護士に早めに相談してください。
Japan Care Conciergeは、海外にいるご家族の代わりに、法務局の手続案内・銀行・市区町村への日本語での問い合わせを行い、提出先ごとの書類の一覧を作り、司法書士へ相談するための資料をそろえるお手伝いをします。登記の申請代理や法律の判断は行いません。親の介護から相続まで日本側の連絡をまとめて任せたい場合は、海外・遠方のご家族向けの相談フォームから状況をお知らせください。亡くなった直後の手続きの順番は親が日本で死亡したときの手続きで確認できます。
- 相続登記の書類と期限:不動産の所在地を管轄する法務局の手続案内、または司法書士
- 相続税がかかるかどうか:税理士、税務署
- 署名証明・在留証明の取り方と予約:住んでいる国の日本大使館・総領事館
- 預金・証券の手続:各金融機関の相続手続の窓口
- 戸籍・住民票の除票・介護保険の手続:親の本籍地・住所地の市区町村
よくある質問
遺産分割協議書に付ける署名証明は、発行から何か月以内のものが必要ですか?
不動産登記令が「作成後3か月以内」と定めているのは、登記の申請書や委任状に付ける印鑑証明書です。遺産分割協議書に付ける証明の扱いは、提出前に法務局か司法書士に確認してください。銀行や証券会社は各社が独自に期限を決めているので、それぞれの相続手続の案内で確かめます。
2024年4月より前に亡くなった親の家は、いつまでに相続登記をすればよいですか?
登記をしていなければ、2027年3月31日までに相続登記をする必要があります。相続で取得したことを知ったのが2024年4月以降なら、その日から3年以内です。期限までに遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記で基本の義務を果たせます。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
日本大使館まで遠くて行けない相続人は、署名をどう証明すればよいですか?
法務省は、領事の署名証明を取るのが難しいときは、住んでいる国の公証人が作成した署名証明を添付して登記の申請ができるとしています。外国語の書面になるため、訳文の要否や書き方は、提出先の法務局か司法書士に事前に確認してください。銀行が同じ書面を受け付けるかは各社で異なります。
一時帰国中に公証役場で委任状を認証してもらうと、手数料はいくらですか?
日本公証人連合会の案内では、委任状の認証は4,000円です。外国語の文書なら6,000円が加算されます。ただし、提出先がこの認証を印鑑証明書の代わりとして受け付けるかは別の問題なので、帰国前に提出先に確認してください。
外国籍の相続人は、在外公館で在留証明を取れますか?
在留証明は日本国籍の人に交付される証明です。外国籍の相続人は、住んでいる国の政府などが作成した住民票に相当する書面などを使うことになります。法務省も相続人申告登記の住所の証明について、そのように案内しています。どの書面で足りるかは事案によるため、司法書士に相談してください。
ご家族からの相談
市区町村の窓口への問い合わせ、事業者の比較、受診の準備、離れて暮らすご家族への報告まで、日本側の段取りを引き受けます。状況がまとまっていない段階でも構いません。原則2営業日以内にお返事します。
一次情報・公的情報
本文は下記の9件の一次情報・公的情報を確認して書いています。制度・費用・窓口の情報は自治体や時期で変わるため、最終判断の前に必ずリンク先の公式情報を確認してください。 最終確認日: 2026-10-18.
この記事について
この記事は一般的な説明で、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。Japan Care Conciergeは、1999年設立の社会福祉法人 伸こう福祉会の介護サービスで培った知見をもとに運営しています。同法人は神奈川県でクロスハートの名称で高齢者向け施設・サービスを展開しています。施設・事業者から紹介料は受け取らず、医療行為・診断・緊急対応・直接介護も行いません。介護保険の保険者は全国に1,559あり、認定にかかる日数も運用も保険者ごとに違うので、個別の可否はお住まいの市区町村の介護保険課か地域包括支援センターでご確認ください。公開日・更新日は実際の日付です。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
