親が倒れたという電話は、たいてい時差の悪い時間にかかってきます。飛行機を取るべきか、まず誰に電話するべきか、会社にはいつ言うのか。頭が回らないまま、検索窓に「親 倒れた 遠方」と打っている方も多いはずです。2025年の国民生活基礎調査では、在宅で介護を受ける人の主な介護者のうち13.4%が「別居の家族等」でした。離れて暮らす子が介護の中心になる形は、もう珍しくありません。このページは、急変の知らせを受けてから72時間のあいだに、日本の外や遠方から何をどの順で進めるかをまとめたものです。航空券の取り方や空港からの移動など、帰ると決めた後の動き方は親の入院で緊急帰国するときの動き方で詳しく説明しているので、ここでは帰る前に決めることと、帰れない間に日本側を動かす方法を中心に書きます。
最初の24時間
電話を受けたら
最初の電話の相手が誰かで、次の一手が変わります。病院からなら、担当医の説明を聞ける時間帯と、病棟の直通番号を必ず聞いてください。代表番号だと、時差のある国からかけ直したときに担当につながるまで時間がかかります。救急隊や警察、近所の人、施設の職員からの連絡なら、搬送先の病院名と、本人がいまどこにいるかを確認します。
その場で決めなくてよいことも多くあります。治療の方針は医師から説明を受けてから考えるもので、電話口で同意を迫られる場面は限られます。分からないことは「海外にいて、すぐには行けません。説明を聞ける時間を作ってほしい」とそのまま伝えて構いません。入院先に医療ソーシャルワーカー(MSW)がいれば、面会のルールや今後の流れを聞く窓口になってくれます。相談の仕方は医療ソーシャルワーカーへの相談方法にまとめています。
24時間のチェックリスト
急変の当日に押さえることは、次の8つです。全部を自分でやる必要はありません。きょうだいや日本にいる親族がいれば、電話をかける相手で分担します。
- 病院名・病棟・直通番号・担当医の名前をメモする
- 医師の説明を聞ける時間帯を確認する(ビデオ通話や電話で聞けるかも聞く)
- 病院が求める「キーパーソン」(説明を受け、連絡窓口になる家族)を誰にするか決める
- 保険証・お薬手帳・診察券のある場所を、実家の鍵を持つ人に伝える
- 親の家の火の元・戸締まり・ペットの世話を、近くの親族か知人に頼む
- 介護保険のサービスを使っているなら、担当ケアマネジャーに入院を知らせる
- 勤務先に一報を入れる(詳細は分かり次第、と添える)
- 航空券は検索だけしておき、予約は医師の説明を聞いてから決める
勤務先への一報
勤務先へは、決まっていないことを含めて早めに伝えます。「親が入院した。容体の説明を明日聞く。休みが必要になる可能性がある」の3点で十分です。日本の会社に雇われている場合、育児・介護休業法による介護休暇は、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで取れます。数日で戻る帰省なら、介護休暇と年次有給休暇の組み合わせで足りることが多く、長期の介護休業を使うかどうかは、退院の見通しが立ってから考えても間に合います。
72時間まで
地域包括とケアマネ
2日目からは、入院のあとを見越して日本の介護の窓口に連絡を入れます。親がまだ介護保険のサービスを使っていないなら、相談先は親の住所地の地域包括支援センターです。市区町村が設けている高齢者の総合相談の窓口で、家族からの電話相談も受け付けています。すでに担当のケアマネジャーがいれば、ケアマネジャーが病院と情報をやり取りし、退院後のサービスを組み直す役になります。
地域包括支援センターへの最初の電話では、親の氏名・住所・生年月日、入院先、ひとり暮らしかどうか、家族がどこに住んでいるかを伝えます。要介護認定をまだ受けていない場合、入院中でも申請できるかどうか、誰が代わりに申請できるかを聞いておくと、退院の時期にあわてずに済みます。申請の代行は要介護認定の代理申請で詳しく扱っています。
連絡先の自治体が分からないときは、親の住所を市区町村のウェブサイトの「地域包括支援センター 一覧」で検索すると、担当地区のセンターが出てきます。
72時間のチェックリスト
3日目までに次の点が片づいていれば、帰る・帰らないの判断材料はそろいます。
- 医師から病名・治療の見通し・入院期間の目安の説明を聞いた
- 退院の時期と、退院後に自宅へ戻れそうかの見込みを病院に聞いた
- 地域包括支援センターかケアマネジャーに状況を伝え、担当者の名前を控えた
- 要介護認定の申請が必要か、申請済みならいまの区分を確認した
- 入院費の支払い方法(窓口払い・振込)と、限度額適用の手続きの要否を病院の会計で聞いた
- 実家の郵便物・新聞・冷蔵庫の中身を誰が見るか決めた
- きょうだい・親族で、誰が何を担当するかを書いて共有した
- 自分が帰る場合の日程と、帰れない場合に日本側で動く人を決めた
帰るかどうか
判断の目安
すぐに帰るか、日程を決めて帰るか、今回は帰らないか。迷ったときは、医師の説明と、日本側に動ける人がいるかの2つで考えます。下の表は判断の目安で、最終的には病状と家族の事情で決まります。
| 状況 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 医師から「会わせたい人がいれば呼んでください」と言われた | すぐ帰る | 時間の猶予が読めないため。航空券は最も早い便を優先する |
| 手術や治療方針の同意に家族の立ち会いを求められた | 日程を決めて帰る | 電話やビデオ通話で足りるか、病院に先に確認する |
| 退院後に自宅へ戻れるか分からない | 退院前の話し合いに合わせて帰る | 施設か在宅かを決める場に居合わせると、その後の調整が早い |
| 容体は安定し、日本に動ける親族がいる | 今回は帰らない選択もある | まとまった休みは退院後の体制づくりに回す |
| 容体は安定しているが、日本に動ける人がいない | 短期で帰るか、日本側の代行を手配する | 入院中の手続きと実家の管理を止めないため |
帰省費用の試算
1回の帰省にかかる費用は、住んでいる国、時期、予約のタイミングで大きく変わり、公的な統計もありません。ここでは数字を当てはめて計算する型を示します。下の金額は計算の例として置いた仮の数字で、相場ではありません。
この型で一度計算しておくと、年に何回帰れるか、帰る回数を減らして日本側の代行に費用を回すほうがよいか、という比較ができます。国内の遠距離なら、航空会社の介護割引やJRの制度で交通費を抑えられる場合があります。条件は介護の交通費を抑える割引ガイドにまとめています。
| 項目 | 計算の仕方 | 仮の数字での例 |
|---|---|---|
| 往復の航空券 | 直前予約の運賃で見積もる | 20万円 |
| 空港から実家・病院までの往復 | 電車・バス・タクシー | 2万円 |
| 宿泊 | 実家に泊まれない日数×1泊の料金 | 1万円×5泊=5万円 |
| 現地での移動 | 病院・役所・施設見学の交通費 | 2万円 |
| 休んだ日の収入 | 無給になる日数×日額 | 勤務先の制度による |
| 合計(収入減を除く) | 上の4行の合計 | 29万円 |
介護休業の使い方
93日と3回分割
日本の勤務先で働いている場合、介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分けて取れます。対象家族には父母と配偶者の父母が入ります。ここでいう要介護状態は、けがや病気、障害のために2週間以上にわたって常に介護が必要な状態です。希望どおりの日から休むには、休業開始予定日の2週間前までに書面などで勤務先に申し出る必要があります。急変の翌日から介護休業に入れるとは限らないので、最初の数日は介護休暇や有給休暇でつなぐことになります。
厚生労働省も、介護休業の期間は自分で介護をするためというより、仕事と介護を両立できる体制を整える準備期間と位置づけています。93日は、体制をつくる節目ごとに使うと考えると計画が立てやすくなります。急変の直後に全部使ってしまうと、退院後や施設入居のときに休めなくなります。
| 回 | 使う時期 | その間にすること |
|---|---|---|
| 1回目 | 入院中から退院まで | 医師・MSWの説明、要介護認定の申請、退院後の住まいの決定 |
| 2回目 | 退院直後か施設入居のとき | ケアマネジャーとの契約、サービスの開始、実家の片づけ |
| 3回目 | 残しておく | 再入院、区分変更、看取りなど次の節目に備える |
介護休業給付金
雇用保険に入っている人が介護休業を取ると、ハローワークから介護休業給付金が出ます。1か月ごとの支給額は、原則として「休業開始時の賃金日額×支給日数×67%」です。同じ家族については93日を限度に3回まで支給され、申請は原則として勤務先を通じて行います。
支給額には上限があり、ハローワークの案内では1か月あたり366,222円です。この上限は毎年8月1日に見直されます。休業中に会社から賃金が出ると、その額によって給付金が減ったり出なかったりします。給付金は休業中の収入を補うもので、帰省の交通費は対象外です。
海外の会社に現地の契約で雇われている場合は、日本の介護休業や給付金ではなく、その国の制度と就業規則が基準になります。日本企業の駐在員は日本の雇用契約が続いていることが多いので、人事部門に確認してください。駐在中の判断は海外駐在中の親の介護でも整理しています。
連絡がつかないとき
安否確認の順番
ひとり暮らしの親と半日以上連絡がつかないとき、遠方からできることは電話をかける先を広げることです。次の順に当たると、早く確実に様子が分かります。
- 時間をおいて2〜3回電話する(固定電話と携帯の両方。入浴中や通院中のこともある)
- 近くに住む親族・知人・隣家に、家を見に行ってもらえるか頼む
- デイサービスや訪問介護を使っていれば、事業所かケアマネジャーに今日の利用状況を聞く
- 親の住所地の地域包括支援センターに、状況を伝えて相談する
- 地域の民生委員につないでもらえるか、市区町村の福祉の窓口に聞く
- 倒れている可能性が高い、または命に関わる状況が疑われるときは、迷わず親の住所地の警察に相談する(緊急なら110番)
頼み先ごとの役割
民生委員は厚生労働大臣から委嘱され、地域で住民の相談に応じる人です。ひとり暮らしの高齢者の見守りに関わっていることも多く、地域包括支援センターや市区町村から連絡がつく場合があります。ただし家に入る権限や合鍵を持っているわけではないので、室内の確認まで頼めるとは限りません。
家の中で倒れている疑いが強いときは、警察や消防の判断で室内を確認することになります。海外から電話する場合は、親の住所・氏名・年齢・持病・最後に連絡が取れた日時・合鍵を持つ人の連絡先を、先に書き出してから電話すると話が早く進みます。
連絡がつかない事態は、一度起きると次も起きます。落ち着いてから、見守りの仕組みを入れておくと安心です。方式ごとの費用は見守りサービスの比較で比べられます。地域の見守りの使い方は親の孤独と孤立を防ぐにまとめています。
海外から頼める支援
日本側の代行
急変の72時間で負担が大きいのは、時差のある中で日本語の電話を何本もかけ、説明を聞き、決めたことを家族に伝える作業です。Japan Care Conciergeは、海外や遠方にいるご家族の代わりに、病院・地域包括支援センター・ケアマネジャー・施設との連絡を日本語で進め、決める場面に必要な情報を整理してお届けします。
医療行為や緊急の駆けつけ、介護そのものは行いません。そのかわり、帰国前に誰と何を話すかを決め、帰国中の面談を組み、帰国後も報告を続けることはできます。いまの状況を海外・遠方のご家族向けの相談フォームからお知らせください。受診や入院中の調整が中心なら医療コーディネート、退院後の介護の段取りなら介護ナビゲーションの内容もご覧ください。
全体の進め方を先に知っておきたい場合は、海外から日本の親を支える方法から読むと、急変の前にできる準備も分かります。
よくある質問
親が救急搬送されたと連絡が来ても、すぐに帰国できません。病院には何を伝えればいいですか?
海外にいてすぐには行けないこと、医師の説明を電話かビデオ通話で聞きたいこと、連絡のつく時間帯の3点を伝えます。病棟の直通番号と担当医の名前も聞いておくと、かけ直したときに話が早く進みます。日本にいる親族が説明を受けられるなら、その人をキーパーソンとして病院に伝えておきます。
介護休業93日を急変の直後に使い切らないほうがよいのはなぜですか?
介護休業は対象家族1人につき通算93日・3回までなので、最初に全部使うと、退院後のサービス開始や施設入居、再入院のときに休めなくなります。急変直後は介護休暇や有給休暇でしのぎ、介護休業は退院の前後など体制を決める時期に充てるほうが使い道が広がります。
ひとり暮らしの親と一日連絡がつかないとき、警察に相談するのは大げさですか?
命に関わる状況が疑われるなら大げさではありません。まず親族や近所の人、利用中の介護事業所、地域包括支援センターに当たり、それでも様子が分からず倒れている可能性があるときは、親の住所地の警察に相談します。住所・持病・最後に連絡が取れた日時・合鍵を持つ人を先にまとめておくと、話が早く進みます。
帰省の航空券代は介護休業給付金で補えますか?
補えません。介護休業給付金は休業中の賃金を補うもので、支給額は原則として休業開始時の賃金日額×支給日数×67%、1か月あたりの上限もあります。帰省の交通費は自己負担になるので、国内なら航空会社やJRの介護割引が使えるかを確かめてください。
親がまだ介護保険を使っていなくても、地域包括支援センターに家族から相談できますか?
相談できます。地域包括支援センターは高齢者の総合相談の窓口で、離れて暮らす家族からの電話相談も受け付けています。親の住所地を担当するセンターに、入院先とひとり暮らしかどうかを伝え、退院後に向けて何を準備すればよいかを聞いてください。
ご家族からの相談
市区町村の窓口への問い合わせ、事業者の比較、受診の準備、離れて暮らすご家族への報告まで、日本側の段取りを引き受けます。状況がまとまっていない段階でも構いません。原則2営業日以内にお返事します。
一次情報・公的情報
本文は下記の6件の一次情報・公的情報を確認して書いています。制度・費用・窓口の情報は自治体や時期で変わるため、最終判断の前に必ずリンク先の公式情報を確認してください。 最終確認日: 2026-10-18.
この記事について
この記事は一般的な説明で、医療・法律・介護の個別アドバイスではありません。Japan Care Conciergeは、1999年設立の社会福祉法人 伸こう福祉会の介護サービスで培った知見をもとに運営しています。同法人は神奈川県でクロスハートの名称で高齢者向け施設・サービスを展開しています。施設・事業者から紹介料は受け取らず、医療行為・診断・緊急対応・直接介護も行いません。介護保険の保険者は全国に1,559あり、認定にかかる日数も運用も保険者ごとに違うので、個別の可否はお住まいの市区町村の介護保険課か地域包括支援センターでご確認ください。公開日・更新日は実際の日付です。記事の作成・出典・修正の方針は編集方針をご覧ください。
